2021年 5月 13日 (木)

戯曲の「デジタルアーカイブ化」はなぜ必要だったのか 無料公開に踏み切った思い、担当者に聞いた

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   日本劇作家協会が、戯曲の収集と無料公開を目的としたウェブサイト「戯曲デジタルアーカイブ」を公開した。

   この取り組みに、SNS上では「こんなすごいものただで読めていいんだろうか」、「戯曲を読むのも好きなので、とても嬉しい」といった喜びの声や、公開された戯曲を使って上演を行いたいという声が広がった。

   J-CASTニュースは2021年3月16日、このサイトの公開背景について戯曲デジタルアーカイブ委員会の丸尾聡さんに取材した。

  • 戯曲デジタルアーカイブ委員会の丸尾聡さん(Zoomより)
    戯曲デジタルアーカイブ委員会の丸尾聡さん(Zoomより)
  • 戯曲デジタルアーカイブ委員会の丸尾聡さん(Zoomより)

戯曲をもっと身近に

   戯曲とは、演劇の上演を前提に執筆された文芸作品で、脚本や台本のようなもの。アーカイブには500作品を超える戯曲が収録されており、多様なジャンル、時代、地域をカバーしている。

   収録された戯曲は「劇作家名」や「作品名」、「上演人数」、「上演時間」、「ジャンル」から検索することが可能で、気になった作家・作品の戯曲を探すことはもちろん、上演条件に合わせた戯曲に出会うこともできる。作品ページでは、PDF化された戯曲が無料で公開されており、劇作家の紹介、作品概要や初演情報、上演許諾についても記載されている。

   このサイトは、文化庁の第二次補正予算コロナ支援の収益強化事業における委託事業「緊急舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD)」の一環で制作された。EPADはもともと、倉庫・運輸関連業の寺田倉庫(東京都品川区)が舞台公演の映像収集・アーカイブ化を目的に行っていたものだ。この事業に協力していた劇作家協会が、戯曲の収集も行いたいと提言し、賛同を得て実現したという。

   丸尾さんは戯曲の収集を行った目的についてこう述べる。

「戯曲は一般の方々にはなじみが少ないです。出版されても売れるようなものではありません。古い戯曲は作家の方が亡くなってしまうと、埋もれ、消えていってしまうこともあります。そこで、散逸しがちな戯曲を未来に残す図書館のようなものを作りたいという想いがありました。
また『戯曲』という言葉自体を知らない方もいらっしゃると思いますが、携帯でも読めるような形にすれば、たくさんの人々に親しんでもらえる、もっと身近になるのではないかと思いました」

公開に向けて苦労した点は

   丸尾さんによれば、戯曲デジタルアーカイブ公開から10日後の3月16日現在、既に多くの上演希望の問い合わせが寄せられているという。丸尾さんは「上演の機会に繋がれば劇作家の利益にもなります。戯曲を死蔵させないということは、戯曲演劇界・文化界全体の1つの貴重なコンテンツになりえます」とその意義を語った。

   また丸尾さんは、「戯曲」という言葉自体を知らない人も多いだろうと推察し、そんな人々もサイトを通して戯曲に興味を持ってもらえたら嬉しいと話す。

「戯曲は確かに小説のような地の文がなく、読みにくいかもしれません。しかし戯曲は演劇の設計図みたいなもので、読み方が分かれば楽しめると思います。
例えばもし好きなタレントやアイドルの方々が出演した戯曲があれば、覗いてみてほしいです。演者の方々が何を見て演じているのか、そういう興味も持っていただけたら嬉しいです」

   戯曲デジタルアーカイブは、劇作家協会会員を中心とした約30人の委員会で制作された。戯曲の著作権や誤字脱字の確認、公開PDFの体裁を整えるといった作業には、俳優や劇作家を志望する人も協力してくれたという。

   公開に向けて力を入れた点はとにかく多くの戯曲を収録すること。予算や事業期間が限られる中で、できるだけ多くの戯曲を集めるために、600人ほどが所属する劇作家協会に協力を呼び掛けた。また歴史的価値のあるものなど残すべき戯曲については、著作権者を調べて直接声掛けも行った。

「権利者を探すのは大変でした。小説などの管理を行う日本文藝家協会に登録されている方もいれば、全く登録されていない方もいます。また演劇から離れたところにいるご家族・ご遺族が著作権者ということもあり、連絡先が分からないこともありました。そうした場合はかつて劇作家が所属していた劇団や大学の教え子などの伝手をたどり、連絡先が判明するまでかなり時間がかかった方もおりました」

   しかし権利者を明らかにするのも戯曲デジタルアーカイブの大事な役割。人々が興味を持った戯曲の権利者に気軽にアクセスしやすくすることで、上演の機会が増えることを期待している。

「半永久的に長く続けていくべき事業だと思います」

   戯曲デジタルアーカイブが公開されると、SNS上では先述のような好意的な反応が広がった。丸尾さんはこうした反響について、次のように述べる。

「正直、予想以上に反響があり驚いています。さらに友達や家族などの仲間内で戯曲の読み合わせや読書会をやりたいという声もいただきました。SNS上でもこのような、上演だけではない新しい活用方法が提案されていました。作り手が思いもしなかった使われ方が、広がっていくのはとても楽しみにしているところです」

   また丸尾さんによれば、著名でなくても上演希望が多数寄せられている作品もあったと話す。というのも、例えば高校演劇などで、部員数や大会の上演時間といった条件にあわせた戯曲を探す際に、同サイトの上演条件にあわせた検索が役に立っているそうだ。

   さて丸尾さんは戯曲デジタルアーカイブを今後、より拡充させていきたいと話す。

「これはアーカイブですから半永久的に長く続けていくべき事業だと思います。しかし来年度以降どう維持、発展していくかが課題です。
今回収集できなかったものも含む戯曲もアーカイブ化していきたいです。載せたいという希望にも応えていきたい。来年度中には第二の収集を行いたいです」

   来年度にはさっそく、利用者や劇作家などを交えたオープンな意見交換の場を設け、さらに充実させていきたいと話す。しかしウェブサイトは維持していくだけでも固定費がかかる。その中で新たにサイトの仕組みを変える、戯曲を募集する際にはやはり費用が発生してしまう。丸尾さんは、今後このアーカイブを維持するためにどのように費用を捻出するか検討していくと話した。

アーカイブ化を通じて見えてきた課題も

   また戯曲デジタルアーカイブを公開する際に、戯曲まわりの著作権に関する課題も浮き上がったという。戯曲の中には、有名な小説の一説など他の著作物を使用していることもあった。こうした戯曲を公開する際には、戯曲そのものは無料であっても、その部分の使用料がかかるものもあるという。

   そのため、場合によっては戯曲を書き変えてもらったり、使用の許諾を取ったりすることがあったという。丸尾さんは、「今後戯曲周りの著作権を考える一つの出発点にもなったと思います」と振り返った。

   最後に丸尾さんはこのアーカイブ公開について、「戯曲が好きで演劇が好きで情熱があってできたことは間違いないです。単に仕事だったらできなかったと思います」と話した。丸尾さんにとっての戯曲の魅力を聞いてみた。

「架空のキャスティングをするのも楽しいです。戯曲自体は作家一人が作った完結した世界かもしれませんが、たくさんの演出家やスタッフが関わることで作家も思いがけなかった膨らみ方をすることがあります。演劇の原点の戯曲があって初めて広がる世界があり、そういった点が戯曲の魅力です」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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