2024年 4月 19日 (金)

まるでセグウェイ!すいすい動く「ねこ車」に業界熱視線 下町ベンチャーが開発、みかん農家でのバイト経験から考案

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   農家などで運搬用に用いられる手押し車「ねこ車」を知っているだろうか。1輪でバランスをとるため、農作業や工事現場といった足場の悪いところで活用されている。しかし、荷物を積んで傾斜を進むのにはパワーとある程度の平衡感覚が必要だ。

   それを電動化する道具「E-cat kit(イーキャットキット)」が広まりつつある。タイヤを交換するだけで電動化でき、力作業が苦手な人でも運搬が楽になる。広島県内の農業組合「JA尾道市」でも販売されおり、みかん農家などで活用されているという。

   このE-cat kitの実演動画が、5月下旬ごろからSNS上で話題となっている。想定利用者ではないとみられる人からも「農作業しないけど欲しい」「カッコいいコレ!」「農家版セグウェイ...?」といった声が上がったのだ。

   注目されたのは、オプションの立ち乗り用台車「ねこのしっぽ」。電動化されたねこ車後方に立ち乗り用の台車を繋げることで、歩かずともすいすいと進める。馴染んだ運搬具が未知の乗り物に変貌する。

   J-CASTニュースは2021年5月31日、E-cat kitを開発したCuboRex(キューボレックス)本社に訪れ、実物を体験した。

  • CuboRex代表の寺嶋瑞仁さん(右)と広報の樋脇誠治さん(左)
    CuboRex代表の寺嶋瑞仁さん(右)と広報の樋脇誠治さん(左)
  • 多くのねこ車を電動化することができる
    多くのねこ車を電動化することができる
  • CuboRexは2016年設立のベンチャー企業で、町工場が集積する東京・荒川区に開発拠点を構える。社員数は7人。
    CuboRexは2016年設立のベンチャー企業で、町工場が集積する東京・荒川区に開発拠点を構える。社員数は7人。
  • 自転車のようにカーブ
    自転車のようにカーブ
  • 人も軽々と運べる
    人も軽々と運べる
  • 雪の上を移動できる乗り物も開発
    雪の上を移動できる乗り物も開発
  • CuboRex代表の寺嶋瑞仁さん(右)と広報の樋脇誠治さん(左)
  • 多くのねこ車を電動化することができる
  • CuboRexは2016年設立のベンチャー企業で、町工場が集積する東京・荒川区に開発拠点を構える。社員数は7人。
  • 自転車のようにカーブ
  • 人も軽々と運べる
  • 雪の上を移動できる乗り物も開発

シンプルでカスタム自在

   一輪車電動化キットE-Cat Kitはかなりシンプルなものだった。既存のねこ車のタイヤをモーター内蔵ホイール(タイヤ)に交換し、バッテリー、コントローラ、アクセルレバー&ディスプレイを設置すれば電動化完了だ。バッテリー類は結束バンドやマジックテープなどで容易に設置することができ、コードさえ繋がっていればどこに設置しても問題ないため、ほとんどのねこ車に対応している。左利き用にすることも可能だ。

   電動化されたねこ車は、アクセルレバーを握ることで走り出す。手を離せば止まるというシンプルな仕組みだ。パワーは5段階用意されており、ディスプレイで調整することができる。悪路に強く、30度の坂道も軽々登れるパワーを備えているため、平地で利用すると意外とスピードが出る。パワーを強めに設定して坂道を上ると、ねこ車に引っ張られるように前に進んだ。もちろん荷物を積んでも軽々と走った。

   SNS上で話題となった立ち乗り用台車「ねこのしっぽ」も見せてもらった。こちらは二輪にできる猫車に設置されていた。一輪のねこ車に用いることもできるが、今回は安定感を重視し二輪のねこ車で体験してみた。二輪のねこ車は従来のものほど悪路に強くはないが、平衡感覚をつかみやすくなっている。

   ねこのしっぽは、ねこ車の車輪後方のスタンドに繋ぐ。台車に乗ってアクセルを握ると、ねこ車が台車を引っ張り、風を切るように勢いよく進んだ。自転車のように猫車のレバーを傾けながら重心を移動させると、曲がることもできる。バランス感覚をつかむのには少しコツがいるが、記者は数分で自在に操ることができた。

「ねこのしっぽ」を装着したねこ車
「ねこのしっぽ」を装着したねこ車

   これらを開発したのは、CuboRex代表取締役の寺嶋瑞仁さん。同社は2016年設立のベンチャー企業で、町工場が集積する東京・荒川区に開発拠点を構える。社員数は7人。

   開発では、ねこ車の「地域差」に注目した。地形などによって用いるねこ車の形状が異なるため、どんなねこ車にも対応できるようにしたという。さらにエンジニアリングの知識がない人でも取り付け・使用できるよう工夫した結果、シンプルなキットが誕生した。

ユーザーとともに「不整地」を切り開く

   E-Cat Kitを開発した背景について、寺嶋さんはこう述べる。

「私は和歌山県の有田という日本一のみかん産地の出身です。中学から高等専門学校にかけては、みかん農園でアルバイトしておりました。その時の経験をもとにE-Cat Kitを開発しました。
山の傾斜部の運搬作業の苦労や重量物を積んだ状態での悪路での転倒、これを解決できるものを作りたいと高専時代から開発に着手しておりました」

   自身の経験をもとに「欲しい」と思ったものを開発しているという寺嶋さん。新潟県の長岡技術科学大学に3年次編入した際には、クローラ(キャタピラ)の技術を用いて雪上を進む乗り物の開発なども行っていたという。通学する中で、雪国の移動手段の少なさを実感したためだ。

雪の上を移動できる乗り物も開発
雪の上を移動できる乗り物も開発

   こうした経験から、現在は「不整地のパイオニア」となるべく"不整地産業"の課題解決に取り組んでいる。

「不整地産業は同じ業種でも同じやり方はありません、季節ごとによって作業内容が大きく異なります。そう言った際に完成品された製品ではなくユーザー自身が不整地環境で利用できるガチな『レゴ』のようなものがあればよりよい社会への貢献ができると考え、不整地産業に着目しました」
ブロック玩具の『レゴ』のように、ユーザーが必要だと感じたものを自分で作り上げられる道具を提供することを使命とし、「今後も多くの不整地での問題や環境を解決したい」と意気込む。

   「レゴ」のような商品は、開発し販売したら終わりではない。寺嶋さんは、ユーザーもまた「開発者」であると考えている。

「身勝手かもしれませんが、購入してくれたユーザーの皆さんも同士、開発者だと思っています。ユーザーがそれぞれの目的・用途に合わせて、新たなものを生み出していくことを期待しております」

   CuboRexは、フェイスブック上にE-Cat Kit購入者を中心としたグループを作成し、ユーザーと頻繁に情報交換を行っている。グループのメンバーは500人を超え、商品をどう用いているか、どうカスタマイズしたのかといった報告や相談、新たな商品への要望などが寄せられている。

   これによればE-Cat Kitは現在、主にみかん農家で活躍しているようだ。このほか墓地の掃除、害獣駆除や養蜂、建設など様々な現場でも用いられている。中には三輪車にキットを装着し、雪国を駆け抜ける様子を投稿する人もいた。こうしたユーザーの豊かな発想を見て、寺嶋さんたちは製品の改良や新製品開発の参考にしている。

コロナ禍の苦労とSNSの可能性

   寺嶋さんは今後、商品を取り扱う代理店を増やしていきたいと意気込んでいる。各地域の地形や産業を理解しているのは代理店であるとして、代理店から地域にあったE-Cat Kitの在り方を発信していって欲しいという。

   しかし昨今は、新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で商品を紹介できる機会が減っている。

「以前は一回の展示会(イベント)につき約100件の商談に繋がることもありました。しかし現在は新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で、商品を紹介できる機会が減少しています。
動画などで紹介することにも力を入れていますが、ハードウェアはやはり直接体験してもらわないと魅力が十分に伝わらないかもしれません」

   そんな中、SNS上で予想外の注目が集まった。発端となったE-Cat Kit を紹介するツイッター上の投稿は6月3日現在までに、1万リツイート、2万いいねを超える反響があった。

「取材や問い合わせが増え、反響に驚いております。投稿者は社員でも知り合いでもなかったのですが、拡散していただきありがとうございました」

   そして最後に、こう語った。

「E-Cat Kitは、高専時代のアルバイトで苦労したみかん産業に貢献できると思っております。普段みかん農家で一輪車の運搬に苦労されている方にぜひ使っていただきたいと考えております。
また私たちが提供するE-Cat Kitを含めた全ての製品は『不整地産業で使えるガチなレゴ』をコンセプトに作っています。完成された製品ではなく、自由な発想で取り付けたりカスタムしたりもできます。ぜひよりよい不整地での産業活動に向けてご自身で必要に応じてカスタムして使って欲しいです」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中