2024年 4月 26日 (金)

地震が起きても「急いで避難できない」 身体障害の当事者が改めて痛感した「災害の恐怖」

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   地震で避難の必要が生じても、手足がないとすぐに動くことは難しい。20歳の時に事故で右手と両足を失い、現在YouTubeやSNSなどで障害に関する情報発信を続ける山田千紘さん(30)は、2021年10月7日夜に首都圏などを襲った地震で、「災害時における身体障害者のハンディキャップ」と向き合うことになった。

   東日本大震災以来10年ぶりに東京都区部で震度5強を観測した今回の地震。東京で1人暮らしをする山田さんは、地震災害の「備え」として何が必要だと思ったのか。本人が語った。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • 山田千紘さんは、自宅では車いすで過ごす
    山田千紘さんは、自宅では車いすで過ごす
  • 山田千紘さんは、自宅では車いすで過ごす

緊急時、迅速に避難できる体ではない

   7日夜の地震が起きた時、僕は東京都内の自宅にいました。友達が来ていて、テレビを見ながらのんびりしていた時のことでした。

   地震が起きて真っ先によぎったのは、「津波の心配があったらどうしよう」でした。住んでいるのがアパートの1階で、近くに大きい川もあります。津波が来たらひとたまりもありません。

   普段、外出時は義足で歩きますが、自宅では義足を外して車いすで過ごします。義足を履き、さらにズボンや靴を履くにも時間がかかります。

   だから、緊急で外に出なければならなくなったら車いすを使います。でも水の中は移動できません。泳ぐこともできません。建物の上の階へ移動することも難しいです。津波が来ることが分かっても、すぐに遠くへ移動することはできません。

   今回の地震、僕自身は幸い家が無事で、普段通りに過ごすことができました。でも、もし被害が大きくて「避難所や高台へ行け」と言われたらどうなるか。緊急時、迅速に避難できる体ではないと改めて認識しました。

   僕だけではありません。日常的に車いすで生活する人は、もしマンションに住んでいてエレベーターが止まってしまったら、きっと移動がままならなくなる。避難できても、トイレが使えないなどの不便が生じるかもしれない。目が見えない人だったら、まったく知らない避難所へ行くと、どこに何があるか分からなくて戸惑ってしまうかもしれません。

   身体障害があっても、日常生活では問題がない人も多いと思います。でも、非日常に放り込まれた時、その障害はハンディキャップとして顕在化する。障害の種類や程度によってその度合いは違いますが、災害が起きた時、困難に直面することは健常者より多いでしょう。

   僕の場合は、逃げる必要が生じても、急いで避難できない。それは大きなハンデだなと感じました。

「備え」は、近隣の方々と日頃からコミュニケーションを取ること

   僕は事故で突然手足をなくしました。事故も地震も、いつどこで自分の身に起きるか分かりません。そういう時の「備え」はどうすればいいのだろう。今回の地震で改めて考えました。

   僕が思った「備え」は、近隣の方々と日頃からコミュニケーションを取っておくということです。緊急時に「助けて」と言える、または言ってもらえる関係になっていれば、より円滑に協力し合えると思います。

   災害時はインターネットや携帯電話の電波も通じなくなるかもしれない。友達がいくらたくさんいても、すぐ近くにいなかったら助けを求めることはできない。

   プライバシーの問題で言いたくない人もいるでしょうけど、近隣の方に「身体障害のある人がここに住んでいる」と予め知っておいてもらうだけで、緊急時に手助けしてくれるかもしれません。

   「備え」はそこからだと思います。食料の備蓄などはもちろん必要ですが、それ以前に自分の身を守らないといけない。1人で守り切れないなら、近くの方に協力していただく。

   そのために自分の存在を知ってもらう。日頃からコミュニケーションを取っておくことが大事だと思います。これは障害の有無とは関係がないかもしれませんね。

「助け合い」の大事さ

   僕は1人暮らしをしています。先日、モデルナの新型コロナウイルスワクチン2回目接種をした時、39度の熱が丸1日出ました。家の中の移動もなかなかできなくなりました。

   寝ていた時、友達が自宅までドリンク類やゼリーを差し入れに来てくれました。僕からは連絡しておらず、SNSの更新が止まって心配になったと言っていました。ワクチンで発熱するとは聞いていたので、自分でもある程度の食事や飲み物は準備していました。でも、備えが全くない状況だったら本当に助かっていました。

   地震の時も、ワクチンで発熱した時も感じたのは、「助け合い」の大事さ。誰かを思いやることも、自分から「助けて」と言えることも、どちらも大事です。隣の住人の方にも、もっと挨拶しておこうと思いました。

   事故に遭ってから、1人でできないことにたくさん直面してきました。周りの人に助けられたことが何度もあり、人のありがたさを日々感じています。同時に、助けてもらうばかりではなく、自分も誰かがピンチの時は助けてあげられる人間でありたいと思うようになりました。

   今、自分のホームページ作りを進めていて、友達に手伝ってもらっています。YouTubeも編集ができる友達と一緒に続けています。こうした活動も、人に支えてもらって初めてできていることです。

   「持ちつ持たれつ」という言葉が好きで、「助け合い」の意味だと思っています。僕は助けてもらう場面が多くて、自分が逆に誰かにできることは何かをよく考えます。

   今の僕にできるのは、たとえば日々のYouTubeやSNSでの情報発信で、見た人に勇気を持ってもらうこと。僕と一緒にいた人が元気になってくれる存在でありたいです。そうして誰かを助けることと、誰かに助けられることが繋がっていくような、プラスの連鎖を生みたいですね。

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