「後発薬ショック」で医療現場が未曾有の事態 「我々も限界」「薬局の信頼にかかわる」薬剤師が語る過酷な現状

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「頑張っていますが、我々も限界です...」

   2021年11月下旬、ある薬剤師の悲鳴のような投稿がツイッター上で注目を集めた。背景にあるのは、後発(ジェネリック)医薬品大手の業務停止命令に端を発した、医薬品の供給不足。薬局などで働く薬剤師の負担が増している。

   人々の健康を支える現場で、何が起きているのか。「SOS」を出した薬剤師に話を聞いた。

  • ツイッター上で聞かれた薬剤師の悲鳴
    ツイッター上で聞かれた薬剤師の悲鳴
  • ツイッター上で聞かれた薬剤師の悲鳴

「お薬はないです。もう一度言います。お薬はないです」

「お薬はないです。大事なことなので、もう一度言います。お薬はないです。薬局をかえても卸をかえても手にはいりません。日本に存在する品目のうち、半分くらいはまともに入ってきません」
「頑張っていますが、我々も限界です...」

   2021年11月下旬、病院の薬剤師として働くユーザーは、現場の深刻な「薬不足」と、悲痛な胸の内を訴えた。ツイートは6000件を超えるリツイートを集めるなど、話題を呼んだ。

   薬不足の背景にあるのは、後発医薬品メーカーで相次いだ不祥事だ。小林化工(福井県あわら市)は水虫などの治療薬に睡眠導入剤が混入した問題で、今年2月に業務停止処分を受けた。21年3月には後発薬大手の日医工(富山市)、10月には長生堂製薬(徳島市)で製造上の不正が発覚し、業務停止処分を受けている。

   こうした状況に追い打ちをかける出来事もあった。11月29日には、複数の医薬品メーカーが利用していた日立物流西日本物流センター(大阪市)で火災が発生。後発薬メーカーの大原薬品工業(滋賀県甲賀市)は、火災の影響で67品目が欠品、もしくは欠品が予想されるとした。

理解されない「薬不足」の現状

   薬不足の影響は、薬局で働く薬剤師に及んでいる。

「いつも薬局で貰う薬が急に無くなる事もあり得ますが、薬剤師として必死にかき集めています。どうか状況をご理解いただき薬剤師に当たらないようにお願いします」

   11月29日、こうツイッターで投稿したのは、大阪府のドラッグストア内にある薬局で働く@Dgs_yakugoriさん。12月2日、J-CASTニュースの取材に対し、薬不足による業務への影響が出ていると話した。具体的には、在庫管理の混乱、調剤スピードの低下、薬の在庫がない場合、代替薬を医師に提案する「疑義照会」の増加、患者への説明増加があるとした。

   ただ、こうした薬不足の現状は、患者の耳にはなかなか伝わっていないという。

「薬がないという現状が信じられないというかあり得ないと感じる方も多く、薬局の怠慢だとお叱りをいただく事もありました」

   「頑張っていますが、我々も限界です...」と投稿した先の薬剤師にも同日、話を聞くと「医師からも患者さんからもお叱りを受けることが頻繁にあります。正直、本当に辛いです。でも、医師も患者にも理解していただき協力してもらわないと、もう無理です...」と胸の内を明かした。調剤薬局で働く周囲の薬剤師仲間には、疑義照会をした医師から「変更するな。なぜ出来ない」「書いてある通りに出せ」と言われた人もいたという。

「いつもの薬」ないとリスクも

   日本薬剤師会常務理事の有澤賢二氏は12月10日の取材に、薬不足は「薬局の信頼にかかわってくる問題」と危機感をあらわにする。自身も札幌で薬局を経営する有澤氏。薬局業界では、地域に住む患者のニーズに応える「かかりつけ薬局」への転換が求められているが、「モノ(薬)が入らないことで、地域の信頼を失っていくのは本当にやるせない」と肩を落とす。

   患者からすれば「いつもの薬」がもらえないデメリットは大きい。薬局での待ち時間が増えるだけでなく、最寄りの薬局に薬がなければ、在庫のある薬局を探す必要も出てくる。

   他の薬に替えれば、身体へのリスクが心配される。現在不足している薬の一つに、抗てんかん薬の「バルプロ酸ナトリウム」がある。有澤氏は剤形を変えたり、同種同効の代替薬を服用すれば症状の悪化も懸念されるとし、「今までの薬で安定的に発作がなかった患者に対し、他の製品に変更する際は、きちんと発作が抑えられているか、予期せぬ副作用が出ないかなどは薬剤師としても注意する必要があると考えている」と話す。

   自身が勤める薬局でも「バルプロ酸ナトリウム」が不足しているという薬剤師の@Dgs_yakugoriさんは「未曾有の事態であり、健康を脅かす問題として全国民に周知すべき」と警鐘を鳴らす。

供給量「増えている」医薬品は多いのに...

   こうした事態に、国も動き始めている。

   厚労省医政局経済課は12月10日、都道府県や医療関係者に通知を出した。そこには、薬不足の現状を示すデータが記載されていた。同課が10月1日時点で出荷停止していた品目と、その代替品など約4800品目を対象に、昨年9月と今年9月の流通量を比較。すると、86%の品目で増加、14%の品目で減少していたことがわかった。増加品目が多いのは、薬不足を受けメーカーが増産対応などの措置を取ったためだ。

   増加品目が多いのに、薬局で薬が不足するのはなぜか。同課の担当者は15日の取材に「医薬品の偏在」が起こっている可能性を示唆した。大手メーカーの出荷停止により、同一成分の薬を扱うメーカーに需要が殺到。メーカー側は在庫の枯渇を防ぐため出荷先に優先順位をつける「出荷調整」を行う。その結果、薬が手に入る現場と、手に入らない現場に差が生じる、というものだ。

   同課はメーカーの業界団体に、供給量が5%以上増えている薬は出荷調整を解除するよう要請した。一方、日本薬剤師会など医療業界には、医薬品の偏在解消を目的に「処方見込みや在庫量を把握の上、必要最低限の発注としていただき、返品は避けていただきたい」と求めた。

   この通知を、現場の薬剤師はどう見たのだろうか。

   前述の病院薬剤師は16日、取材に対し「業界が足並みを揃えるという意味でも、厚労省が動いてくれて良かった」と評価した。ただ、「メーカーや卸が調整をしてくださったおかげで確保できた在庫がいくつもあった」とし、出荷調整解除の要請には疑問を投げかけた。

全ての出荷停止再開には2年程度見込む

   ドラッグストア内の調剤薬局に勤務する@Dgs_yakugoriさんは15日、取材に「処方見込みを立て、在庫量を把握しても医師が処方権を握っている」とし、厚労省からの要求は「薬局のみでは対応不可能」だと話す。また、病院の近くにある「門前薬局」とは違い、近くに病院がないドラッグストアでは「処方の見込みは立てようもない」と口にした。

   厚労省医政局経済課の担当者は、すべての出荷停止品目が出荷を再開するには2年程度を要する見込みだと話す。

   先の病院薬剤師は、薬価引き下げによる医療費の削減が「巡り巡って今回の問題を発生させたのではないか」として、国にこう訴える。

「どうか、お薬の価値を見直してください。そして、どんどん医療現場の声を聴いてください。現場の状況をもっと知っていただきたいです」

(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)

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