2024年 4月 19日 (金)

「今、世の中に出ている陰謀論は全部つまらない」 月刊ムー・三上丈晴編集長が語る「リテラシー」【インタビュー】

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   ワン・パブリッシング(東京都台東区)が発行する月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏が2022年6月2日、『オカルト編集王 月刊「ムー」編集長のあやしい仕事術』(学研プラス)を出版した。同書では「ムー」が1つのジャンルとして取り上げてきた「陰謀論」についても言及がある。新聞などでも度々取り上げられる昨今の「陰謀論」をどう見ているのか。三上編集長に詳しく話を聞いた。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 薄雅也)

  • インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
    インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
  • インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
    インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
  • インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
    インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
  • 三上丈晴氏著『オカルト編集王 「月刊ムー」編集長のあやしい仕事術』(学研プラス)
    三上丈晴氏著『オカルト編集王 「月刊ムー」編集長のあやしい仕事術』(学研プラス)
  • インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
  • インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
  • インタビューに応じる月刊「ムー」5代目編集長・三上丈晴氏(2022年5月撮影)
  • 三上丈晴氏著『オカルト編集王 「月刊ムー」編集長のあやしい仕事術』(学研プラス)

70年代を小学生で過ごした人は、少なからず怪しいものにハマっているはず

――2022年6月2日に『オカルト編集王 「月刊ムー」編集長のあやしい仕事術』が出版されます。本書が初めての単著になるのでしょうか。

三上丈晴編集長(以下、三上):そうですね。色々書いたものもありますけど、三上丈晴の名前で出す書籍は初めてですかね。

――本書のプロローグで、「ムー編集長の仕事術なる本を出してみないかというお話をいただきました」と書かれていましたが、数あるジャンルのうち「仕事術」というコンセプトで依頼されたのは、何か理由があるのでしょうか。

三上:元々「ムー」は学研(学習研究社)が創刊し、現在の学研プラスが発行していたんですが、そこから市販部門が独立した「ワン・パブリッシング」となり、あるとき、古巣の学研プラスの編集の方に企画を提案されたんです。

――なるほど。

三上:「仕事術」と銘打ってるけど、内容的には「仕事術」じゃないんですよね。偉そうに仕事はこうすべきだとかいう立場ではないことは自覚しているので。本書は、月刊「ムー」ってこういう雑誌なんだよとか、「日本一あやしい雑誌」の編集の裏側ってこうなんだよといったことを書いてます。でも非常に書き方が難しかったですね。

――具体的にはどのような難しさがあったのでしょうか。

三上:月刊「ムー」の歴史を書いたり、入社してから30年間で体験した現場でのエピソードを書いたり、一応「仕事術」と銘打っている以上はメソッド的な要素も入れなきゃいけないとか。思いつくまま面白いことをとりあえず書いて、それをテーマごとに組み立てました。

――本書は、三上さんが大学を卒業してから学研に入社するところから話が始まります。三上さんはいつ頃から超能力やUFO、都市伝説、古代文明、UMAといったものに対して興味を持ったのでしょうか。

三上:1970年代は、今と違ってテレビでは超能力や心霊やネッシーなどを扱った番組が沢山あったんですよ。特に小学生なんかは、色んな話題の中でもやっぱり怪しいものが好きじゃないですか(笑)。学校に行くと心霊写真集とか持ってくる奴がいて、そうすると昼休みに人だかりができて「うわっコレ!」みたいになったりとかね(笑)。70年代は、ある種「夢」みたいなものが溢れていた。70年代を小学生で過ごした人たちは、少なからずそういった怪しいものに関心があって、一度はハマってるはずだと思うんですよ。

ニュースや新聞などで語られないものを知りたい

――本書の第2章で、「テレビ東京系列で放送された番組『やりすぎ都市伝説』がきっかけで(中略)『本当か嘘かわからない話』をもって都市伝説と表現するようになった」「怪談からあやしい話へ。とくに視聴者に受けたのが陰謀論だ」と書かれていますが、なぜ「都市伝説」の意味が広がっていったのでしょうか。

三上:都市伝説というのは元々、「口裂け女」や「てけてけ」といった怪談的な怖さがあると同時に、どこの地域にも当てはまるんです。噂話になりやすく、ちょっと怖いっていう要素があって広まっていくのが都市伝説なんです。1980年代になると、「学校の怪談」が流行るんですよ。例えば「トイレの花子さん」は、実際に起こった殺人事件が元になっているのですが、その一方で、トイレに幽霊が出るという昔から有名な怪談でもある。

その後、元々の都市伝説が持っていた「怖い!」っていう感覚が、単なる心霊的な怖さだけじゃなくて、社会的な事件や国際的なものに対する怖さに広がっていくんです。人類滅亡や世界征服といった予言になると、陰謀論と結びついちゃう。こうなると、芸人さんが例えば秘密結社フリーメーソンが世界征服を狙っていると言うと、視聴者は「怖い!」と思う。どこか「怖い!」っていう反応が、都市伝説が意味するところを拡張している原因だと思います。

――最近では度々新聞などでも「陰謀論」という言葉を見かけます。これらの「陰謀論」にはどのような特徴があるのでしょうか。

三上:今の「陰謀論」というのは、伝統的な陰謀論とは違うんですね。元々「陰謀」っていうのは「陰謀史観」なんですよね。史観というのは歴史の見方のことです。歴史的な事件や流れの背後には黒幕や仕掛けている人物がいて、彼らは個人個人の利益じゃなくて組織的に明確なビジョンを持って動いている。こういった歴史に対する見方は、古代から連綿とあるんです。これら陰謀史観は「秘密結社フリーメーソン」や「イルミナティ」などの単語を置き換えても成り立ちます。言葉が違うだけで、言ってることは基本的に同じなんですよ。

この陰謀史観が、一転して今日語られる「陰謀論」になった一番の要因は、ドナルド・トランプ前大統領の登場です。そしてアメリカ発のQアノン。ここで出てきたのが「ディープステート」(闇の政府)という漠然とした寡頭権力集団みたいな形のものです。2016年アメリカ大統領選挙で、保守派陣営が「ディープステート」といった論を展開する。これには批判もあるし実態も定かではないが、とにかくネットやフェイクニュースの環境に乗っかったんです。本当かどうか分からなくても、政治的に有効だということが分かって、Qアノンやディープステートを信じているか信じていないかにかかわらず、広がるし、語られる。ニュースや新聞などでは語られないものがあってそれを知りたい。そうなってくると、ある種のリアル感として「陰謀論」がドンドン拡散していく。これはこれまでの陰謀論とは違うんですよ。特に政治的な闘争に使われていると、実害を伴うので非常に危険です。

それと、たまに「陰謀論は全部嘘だ」といった言い方がありますけど、これも危険なんですよ。

――どういうことでしょうか。

三上:陰謀論を全部否定することって出来ないんですよ。これは論理的に当たり前で、「ない」ことを証明するのは悪魔の証明だから。完全否定できないのに否定してしまう人が、どこかインチキに見えてしまう。「陰謀論」に対して正論を吐けば吐くほど、嘘っぽく聞こえてくるんですよ。誰かがそう言わなきゃいけないんだけど、怪しいものの扱いって非常に難しいんですよね。『オカルト編集王』の中でも書きましたけど、「100%正しい」「100%信じる」っていうのは非常に危険だし、この世にそんなものはない。「99%正しい」と思っても、1%だけは否定しなくてもいいから「分からない」という部分を残しておく余裕が大事なんです。「99%怪しい世界はない」と思っていても、一言置いてからの論の展開が必要なんですよね。

陰謀論は、世の中の見方を与えてくれて分かった気になる

――こういった陰謀論と、月刊「ムー」が取り上げる陰謀論の両者が、ごちゃまぜに捉えられることはないのでしょうか。

三上:月刊「ムー」の読者は、「ムー」に書かれている内容が好きだし、じっくりと読み込むマニアもいますが、「ムー」の内容を全部信じているわけではないんですよ。そもそも「ムー」に書いてある記事自体、記事ごとで言ってることが違いますからね。よく言うのは、UFOを取り上げるとき、ある号ではUFOは異星人の乗り物、別の号では未来人のタイムマシーン、また別の号では地底人の乗り物だと取り上げています。でも読者はこれらを読んで、本人の中で消化できている。それは一家言持っているからなんです。長年読んでいると、自分はこう考えるとか、記事を読んだときに「ここら辺甘いな」みたいな読み方が出来ているんです。怪しいものに接したときの考え方や扱い方を知っているんですね。

今「陰謀論」ですごい盛り上がってワーッとなってる人たちって、たぶん「ムー」の読者ではないと思うんですよ。恐らく「ムー」の読者は、今の「陰謀論」に対して「そんな甘いもんじゃねぇよ」とちょっと上から見ているところがあるんじゃないか(笑)。

――今、陰謀論で盛り上がっている人たちが「たぶん『ムー』の読者」ではない」とはどういうことでしょうか。

三上:今、世の中に出ている陰謀論は全部つまらないんですよ。陰謀史観にまで昇華していないというか、一つの世界観や歴史観が作り上げられていない。これまでの陰謀史観に比べて、歴史の流れやスケールの大きさから見て、非常にちっちゃい。「もっと奥があるだろ!」みたいな。歴史的にも地理的にもスケールの大きい陰謀論はネットの中にはないんですよね。Qアノンやディープステートも「えっここまで?もっとあるだろ!」と思うし、甘いなと感じます。

陰謀論って、世の中の見方を与えてくれて分かった気になるじゃないですか。「世の中がなぜこうなってるんだろう」という疑問に対し、一つの解答を与えてくれるのが陰謀論なんです。でもそれは一つの見方でしかない。

――その「甘さ」は、どこから出てくるんでしょうか。

三上:それは昨日今日で陰謀論にハマったからです。ネットという環境があって、そういうのに触れる機会が多くなって、今では小学生でも「フリーメーソン」や「イルミナティ」とか言うじゃないですか。世も末だな、みたいな(笑)。

絶望と希望を繰り返すことで鍛えられるリテラシー

――いま流行っている陰謀論を好む人たちについては...

三上:「流行ってる」って時点で、いずれは廃れるという前提です。こういうのって、繰り返し必ず出てくる話なんです。出てくると「またか!その話」みたいな。信じたり裏切られたりする絶望と希望を繰り返しながら、本人の中で世の中の見方が出来ればいいと思います。

――これからまた新しい陰謀論も出てくるかもしれないですね。

三上:陰謀論に対して最初から「そんなものはあり得ない」って言ってるだけでは思考停止であって、それは陰謀論の罠にハマっている。信じたにもかかわらず、フェイクニュースだったり間違えていたりとかで絶望して、それでも、ある情報を流すことで、実はこっちのことを注目させないためなんじゃないかみたいな幻想を抱いたりする。屁理屈にもなるんだけど、絶望と希望を繰り返すことで、ある種のリテラシーが鍛えられていくと思います。どっちにしてもね、100%否定するやつも100%信じるやつも絶望が足りない。もっと絶望しろ!

三上丈晴さん プロフィール

みかみ・たけはる 1968年(昭和43年)、青森県弘前市生まれ。筑波大学自然学類卒業。1991年、学習研究社(学研)入社。『歴史群像』編集部に配属されたのち、入社半年目から月刊「ムー」編集部。2005年に5代目編集長就任。2021年6月24日より、福島市の「国際未確認飛行物体研究所」所長に就任。CS放送エンタメ~テレ「超ムーの世界R」などメディア出演多数。

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