2024年 5月 5日 (日)

手足3本失った僕が富士山に登るには? 盲点だった義手の存在...生まれた「頼もしいパートナー」

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   20歳の時に事故で手足を3本失った山田千紘さん(31)は今夏、富士山登頂に挑戦する。登山の経験はほとんどなく、様々な面から準備を進めている。その中で「頼もしく、素晴らしいパートナー」だと話すのが、登山用に作った特別な義手だ。

   登山にあたって義足をどうするかは考えていたものの、義手を工夫することは考えていなかったという山田さん。一体どんな経緯で誕生したのか。実際に練習の登山で使った感触も交えて語る。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
    ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
    ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
    ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
    ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん
  • ストックつきの義手を使って金冠山に登った山田千紘さん

富士山に登るために生まれた「ストックつきの義手」

   「富士山プロジェクト」と呼んでいますが、2023年8月に富士山に登ることを去年決めました。これまでも右手と両足の3本がないこの体でいろんなことに挑んできましたが、その中でも富士山は大きなチャレンジです。登山の経験自体ほとんどありません。

   義肢メーカー・オズールジャパンの協力を得て、登山用の義手を作りました。日常生活で使っているのは装飾義手といって見た目のリアルさにこだわったもので、特に機能はありません。新たに作ったものは、義手自体がトレッキングに使う長いストック(杖)になっています。

   残っている左手だけでは自力で踏ん張れなかったり、バランスを崩した時に体勢を保てなかったりしました。常に体の軸を垂直に近くしないといけなかったけど、このストック義手なら直接地面をつけるので、多少体が傾いても立て直せるし、右側に倒れそうになっても踏ん張れます。

   ストックの長さも変えられます。登山は上りと下りで必要な長さが違って、上りの方が短い。地面を強くつきたいし、高いところに置きたいからです。逆に下りは低いところをつきたいから長めです。長さ調節は1人で左手だけでできます。

   富士登山のことを考えるにあたって、当初は「義足をどうするか」の発想しかありませんでした。義足をどうするかは今も試行錯誤を続けています。一方で、義手を工夫することは考えていませんでした。

   その認識が変わったのは、去年10月に御巣鷹山に登った後です。登山中に「右腕があったらな」と思う場面が結構ありました。急斜面や足場が悪いところがあり、同行した人に体を支えてもらったけど、自力で支えられればそれがいい。

   僕は腕だけでなく両足もないので、体勢を崩しやすいです。左側につかむものがある場所なら支えにできるけど、ない場所の方が多い。だったら少なくとも、左手にはストックが必要だと思いました。

   一方、体が右に傾いたら、右手がないのですぐ倒れそうになってしまいます。かと言ってストックを握ることはできない。どうすればいいだろうと思い、義足メーカーに「自力で体を支えるために右手を使えませんか」と相談しました。メーカーも同じことを考えてくれていて、義手の重要性を教えてもらうとともに、登山用の義手を作ってみると提案してもらいました。そしてできたのが今回のストック義手でした。義手が大事だというのは当時の僕にとって盲点でした。

手応えを感じたのは間違いなくこの義手があるからこそ

   アイデアを聞いた時は画期的だと思ったけど、同時に目にするまでは「どんな義手になるんだろう?」とも思いました。担当の義肢装具士も「今までこのような義手は作ったことがなかった」ということでした。ストックがついた義手を必要な人はあまりいなかったのだと思います。そんな中で出来上がった試作品。初めてつけた時は「これなら行ける」と直感しました。もちろんこれさえあれば富士山に登れるわけではないけど、とても良い感触でした。

   実際に登山の練習で初めてストック義手を使ったのは去年11月、静岡の金冠山でした。標高800メートルくらいで、ハイキングコースのようでしたが急斜面もありました。バランスを崩してストック義手で体を支えるシーンが何度もありました。山頂にたどり着くと富士山が見えます。改めて「この体で行ってやる」と決意が芽生えました。

   ストック義手の存在は思った以上にプラスになりました。転ぶリスクがかなり改善され、両手両足の4点で体を支えられるから安定感が違いました。後ろに倒れないよう人にバックアップしてもらったり、大きな段差を上る時は体全体を持ち上げてもらったり、人のサポートが必要な場面はありましたが、ストック義手があると結構自力で行けます。少なくとも10月に御巣鷹山を登った時ほど人の力を借りなくて済む場面は多かったです。

   登山への手応えを感じたし、それは間違いなくこの義手があるからこそでした。頼もしく、素晴らしいパートナーです。

ストック義手の懸念点

   ただ、まだ試作段階ということもあって、ストック義手の懸念点も分かりました。全体重がかかった時にストックの細いところが曲がり、折れるんじゃないかという不安を感じました。特に下りは思い切り体重をかけるので、もう少し太くする必要がありそうでした。元々かなり軽かったし、持ち上げるより地面についている時の方が多いので、ある程度重くなっても大丈夫だろうと思いました。

   ストックと切断した腕の端(断端)をつなぐソケットというパーツの内側で、大量に汗をかいたのも懸念しました。ソケットを外して拭かないといけない。富士山はもっと長丁場になるので、少しずつ装着時間を長くしてどうなるか見ていく必要がありそうです。

   あと断端が痛いですね。普段の装飾義手は地面などをつくことがないので、断端を刺激することはありません。それがストック義手だと、手をつくたびに圧がかかって痺れを感じ、結構ストレスになります。

   他の懸念としては、義手だけでなく義足もそうですが、富士山は気圧の変化があることです。手足が膨張してしまい、義足や義手が入らなくなるかもしれません。「汗を拭くために外したら入らなくなるんだろうか」といったことも考えておかないといけません。標高が高い山をまだ登れていないから、今後実際に登って試す必要があります。

ゲームのように少しずつレベルアップ

   そもそもストック義手はまだ短時間しか使っていません。義足もたくさん履くことでどうやって膝が曲がるかといった感覚が分かり、信頼できるようになっていったのと同じで、この義手もたくさん使って性能を体で理解していきたいです。富士山は一発勝負。いろんなリスクを把握して準備していきたいです。

   金冠山の山頂では、達成感はあったけど、体力的にはまだまだ登れそうでした。「早く次に進みたい。レベルアップしたい」という気持ちでした。登り切った直後は疲労感も思ったほどなくて、次へのワクワク感が強かったです。

   ゲームのように少しずつレベルアップしている感覚があります。富士山を登るためにどんな準備が必要か、どんな不安があるか、どうすればクリアできるか。色々と考えて実行していくと、ゲーム感覚で楽しみながら積み上げられているように思います。

(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)

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