2024年 4月 19日 (金)

デザイン重視の「消火栓」アリ?SNS議論に 「本末転倒」厳しい意見も...建築&防災のプロの見解は

   初期消火に使う「屋内用消火栓(収納箱)」のデザインを巡り、SNSで論争が巻き起こっている。

   景観を重視した施設では、周囲と調和させた意匠の消火栓は珍しくない。しかし、生活者から見ると「本末転倒」だと理解できないケースもあるようだ。

  • 一般的な消火栓
    一般的な消火栓
  • 一般的な消火栓

「残念」デザイン?

   防災設備に欠かせない消火栓。赤く光った表示灯と起動ボタンが上部に並び、下部の扉を開けるとノズルやホースなどが収納してある、なじみの存在だ。

   建設関係者を名乗るツイッターユーザーは2023年2月中旬、2つの消火栓の写真を投稿し、それぞれ「残念」「いいね」と講評した。

   「残念」と評されたのは、一般的なクリーム色の消火栓だった。投稿者は消火栓と壁の材質・色が合っていない、明朝体で赤く書かれた「消火用散水栓 消火器」のフォントと色が施設全体と調和していないことを理由に挙げた。

   「いいね」と評価された消火栓は対照的に、一見しただけでは気づかないような壁と同化したデザインだった。投稿者は施設全体のサイン(案内図など)と合わせていると解説した。

   投稿は21日までに6000以上リツイートされ、是非をめぐって議論になっている。同意する声もあるものの、多くは「デザイナーの自己満足」「本末転倒」と視認性が低いために、いざという時に見つけられないという懸念だ。

「"両立"させる方策こそ議論されてほしい」

   防災のプロはどう見るか。

   消防用設備の施工などを手がける青木防災(大阪市)は20日、J-CASTニュースの取材に「"残念"という表現は、手間がかけられていないという点で建築意匠にこだわる方目線の意見としては間違っていないでしょう」と答えた。

   消火栓は、設置、改修の際に所轄の消防署に相談する必要があるが、デザインについては消防法や自治体の独自規則に規定があるものの細かくは決まっていない。ある建築関係者も取材に「扉の仕上げ(色や形状)についての指導はなく、文字が見やすいような仕上げであればよいと判断されることが多いです」と話す。

   「いいね」とされた消火栓も、扉のデザインこそ異質だが「消火栓」の文字は大書されており、消防法は順守しているはずだ。テーマパークや観光地など景観を重視する場では、同様の考えでデザインされた消火栓は少なくない。お笑いタレントの波田陽区さんが、消火栓の写真収集を趣味にするほど実はバラエティに富む。

「本来、建物の防火性能は消火栓のデザイン単体だけで議論するものではなく、建物の構造体としての耐火性能、スプリンクラーやガス消火設備といったメインの消火設備、消防隊の活動しやすいよう進入用の窓の位置や消防活動空地、火災時の煙を逃がす排煙計画、避難計画といったもので総合的に判断するものですが、そこを一般の方に理解頂くことは難しい」
「(デザイン性の高い消火栓を設置している施設は)運用で対応されており、スタッフの防災訓練によって、防火、消火、避難について対応がされていると思われます」(建築関係者)

   青木防災は「実用性については、どれだけ目立たせていても使い方を知らなければ、ただの飾りです。例えば安全衛生の観点から、あらゆる消火栓を目立たせる工夫がされている工場などでも、肝心の使い方を誰も知らない...なんてことが実際あります」と事例を紹介し、実用性とデザインの両立を考えると消防訓練が不可欠とした。

   公共性の高い建物では、避難経路図に消防用設備の位置がプロットされている場合も多く、これも両立させるためのアイデアだという。「定期的に『もっと消防用設備を目立たせるべき!』と炎上しますが、この"両立"させる方策こそ議論されてほしいですね」と要望した。

   もっとも、業界として消防用設備が注目されることは嬉しいといい、「ほとんどの方は『ここに(消防用設備などが)あるって知らなかった...』という状態です。これを機に、身近なところに設置されている消防用設備などを確認してみて下さい」と呼びかけた。

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