2024年 5月 9日 (木)

革命的?「片手でできる」自助具に脚光 「独りでやりたい」を3Dプリンターで形に...作業療法士の思い

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   「片手でできる」をコンセプトにした便利グッズがSNSで脚光を浴びている。

   皿洗いや爪切り、ペットボトルの蓋を開ける動作など、日常には無意識に両手を必要とする場面が多々ある。田川新生病院(福岡県)の作業療法士・川口晋平さんは、握力の弱った高齢者や片手が不自由な人が、こうした日常の何気ない動作を自分でできるようにする「自助具」を開発している。

   片手生活を送っている人々の日常を少しでも楽しくしたい――J-CASTニュースの取材にこう述べる。

  • 片手で食器を洗えるスポンジ
    片手で食器を洗えるスポンジ
  • 片手で開けられるペットボトルオープナー
    片手で開けられるペットボトルオープナー
  • 片手で使える爪切り
    片手で使える爪切り
  • 片手で食器を洗えるスポンジ
  • 片手で開けられるペットボトルオープナー
  • 片手で使える爪切り

「『独りでやりたい』を形にする」

   大阪公立大学でリハビリテーション学に携わる竹林崇教授は7日、ツイッターで次のように川口さんが制作した自助具を紹介した。

「これは革命的では...?片手が障がい等で不自由な方は、本当に、本当に皿洗いで苦戦されることが多いです。そこで、作業療法士の友人がこんな道具を作ってくれました。これを使えば、片手で比較的勘弁に食器を洗うことができると思います。『独りでやりたい』を形にする。必要な方に届いて欲しいです」

   自助具の構造は、U字型のキットの両端に細長いスポンジが2個設けられたシンプルなものだ。シンクに取り付けて使うことができる。スポンジの位置が固定されているため、片手で皿洗いをこなせる。広い面は二つのスポンジにあてて、ふちを洗うときは二つのスポンジの間に通すことで、隅々を洗浄できる。

   この投稿は19日11時までに、約7000件のリツイート、2万件を超える「いいね」が寄せられた。

   竹林さんは川口さんの自助具をツイッターでたびたび紹介しており、過去には、片手で納豆をかき混ぜる、コンビニおにぎりの包装を解く、シャツの裾の留め具「カフス」を留めるための道具などが大きな注目を集めた。二人はこのような片手での日常生活を支える道具「片手でできるプロダクト」を、本業とは別にプライベートで開発し、販売している。

   取材に対し川口さんは、21年10月に竹林さんと活動を始めたと述べる。

作業療法士としての知見を活かし「困っている方を助けることができる」

   作業療法士は、主に医療機関や介護分野でリハビリを提供する職種だ。川口さんは主に脳卒中関連のリハビリテーションを行なってきたという。竹林さんも過去に、作業療法士として、兵庫医科大学病院に勤務していた。

   竹林さんは現在、大阪公立大学で脳卒中後のリハビリテーション全般の研究をしており、川口さんとともに片手が使いにくい脳卒中患者のための道具の開発を手掛ける。担当は道具作成のアドバイザーと広報戦略だ。川口さんはマーケティング、制作・製造を担う。

   川口さんは仕事の中で、握力の弱った高齢者や片麻痺の人が片手でペットボトルが開けられない場面を見聞きしていた。モノづくりが好きな川口さんは、「その方々の困っていることを解決しよう」と考え、自助具の開発を始めた。自宅用に購入していた3Dプリンターで最初に作ったのは「片手で開けられるペットボトルオープナー」だった。

「ペットボトルオープナーを販売していく中で世の中には片手生活を送っている方が多くいて、様々な日常生活動作を行えず困っていることがわかりました。そこで、自分の知識・技術で困っている方を助けることができることがわかり、片手でできるプロダクトの活動を行おうと決めました」

   片麻痺の人だけでなく、握力の弱い人にも受け入れられる商品だったため、大きな反響があった。川口さんは「デザインのポップさも評価されたように感じています」と振り返る。オープナーは花のような形状で、好きな色の組み合わせのものを購入できる。

「事故や脳卒中になり、後遺症が残ると片手での生活を余儀なくされます。片手生活で困ることが主に日常生活動作です。よって主に日常生活動作に即した自助具を企画・作製しています。実際に関わっている障がいを持った方達の日常生活を送る上で困っていること、私自身が日常生活を送る上で不便だと感じること、から道具の企画の基本を考えます。
また、複雑かつ多機能な道具は操作や部品点数が多くなり破損する可能性かが高くなります。したがって、できるだけ操作が簡単にできるよう、シンプルな構造・デザインを心がけるようにしています」

道具を広く一般に普及させたい。

   こうして開発を始めた「片手でできるプロダクト」の注文数は3000件を超える。とくに片手で開けるペットボトルオープナーや、片手で混ぜられる納豆キットは大きな反響があったという。

「納豆を混ぜる動作は片手で対象物を固定しなければなりません。また、納豆は個人によって嗜好性が高い食品です。片手生活を送っている納豆好きの方に受け入れられた」

   個人間の活動であるため、できることには限界がある。川口さんは作業療法士と並行して続けているため、法人化などのリソースが足りていないと述べる。しかし「片手でできるプロダクト」を広く一般の人々を含めて普及させたいと意気込む。そのため、100円均一のショップを運営している企業などとの協業については前向きに考えているという。

「日本中の片手生活を送っている方々の生活が少しでも楽しくなれば良いと思っています。また、障がいを持たれていない方達にもこれらの道具が便利で、彼らの生活を豊かにできる可能性があることを感じてもらえればと思っています。そして、その豊かな生活を送るための術を障がいを有した方々が既に知っていることや、未知の問題も解決できる方法を作業療法士が創造できる職業であることを知ってもらえたらありがたいと思っています」

   「片手でできるプロダクト」は現在、BASEで作成されたオンラインショップ「nico」で販売されている。

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