2024年 5月 17日 (金)

何でもかんでも「ハラスメントだ」と叫ぶ部下 過剰な反論「ハラハラ」に上司が取るべき最善策

   2023年は、さまざまなハラスメントやいじめがクローズアップされた年だった。職場に目を向けると、代表的なセクハラ、パワハラ、マタハラ、就活ハラスメントなどにくわえて、いま、「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」が問題となりつつある。

   これは、過剰にハラスメントを指摘する行為、それ自体をハラスメントだと見なすこと。たとえば、上司の注意や指導に対して、部下が「それはハラスメントだ」と反論し、従わないケースなどが該当する。

   ハラスメントの線引きとは。上司は部下とどう向き合えばよいか。雇用労働問題に詳しい、ワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

  • いま、問題となりつつある「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」とは何か
    いま、問題となりつつある「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」とは何か
  • いま、問題となりつつある「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」とは何か

ハラハラは、ハラスメント意識の高まりに対する反作用

――相手を不快にするさまざまなハラスメントが問題視されているなか、社員も声を上げやすい環境もあるからか、「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」という問題が生じています。あらためて、ハラハラについて教えてください。

川上敬太郎さん ハラハラとは、相手の振る舞いが正当なものであっても、自分が不快に感じたら、「ハラスメント」だと言い立てて過剰に反応し、嫌がらせする行為をいいます。
たとえば、寝坊など明らかに本人に責任がある理由で遅刻して周囲に迷惑をかけ上司から注意を受けた。その際、とくだん厳しい言われ方をされたわけでもないのに、上司に反撃したい一心で「パワハラだ!」と訴えるようなケースなどが当てはまります。

――言葉としては、いつごろからあったものでしょうか。

川上さん ハラハラという言葉をよく目にするようになったのはここ数年のことです。ただ、十年ほど前にはすでに、「何でもかんでもハラスメントと騒ぐのはおかしい。それではハラスメント・ハラスメントだ」とハラスメントを過剰に問題視する風潮に反発する声は見られました。

――そうした経緯があったのですね。

川上さん ハラハラ社員は、必然的に今後も増えていくと思います。なぜならハラハラは、ハラスメント意識の高まりに対する反作用だからです。
パワハラやセクハラなど、ハラスメントが職場で問題視されるようになればなるほど、加害者側も被害者側も敏感になり、「パワハラだ!」「あれはパワハラじゃない。逆にハラハラだ」と、言葉遊びのようにも見えてしまうような応酬が繰り広げられる場面が、起きやすくなると考えられます。

ハラスメントのある職場は「いい人間関係」がない

――ハラハラが起こりやすいのは、どういったシチュエーション、あるいは職場環境でしょうか。

川上さん ハラハラに限らず、あらゆるハラスメントは日々のコミュニケーションの状態が如実に反映されるものです。
たとえば、仕事でミスをした時に上司から、「何やってんだ、アホ」などと言われたら、ショックを受ける人が多いかもしれません。しかし、その言葉の良し悪しは別として、上司とは日ごろから冗談を言い合う仲で、お互いに「アホだ」「バカだ」とキツイ言葉を交わしても、笑っていられる関係性が構築されていれば、何とも思わない言葉ととらえられます。

――たしかに、その言葉を発するトーン、ニュアンスも関係しそうです。

川上さん つまり、こういうことがいえるでしょう。――ハラスメントが指摘される職場は、そもそもあまりいい人間関係が構築されている状態ではない、ということです。
順序としては、ハラスメントが起きることによって職場に悪影響があるというよりは、その逆で、職場がいい状態ではないからハラスメントに該当する行為が起きてしまう、ということになります。ハラハラもしかりです。
そこに、「パワハラだ!」「あれはパワハラじゃない。逆にハラハラだ」と応酬が繰り広げられるようになれば、どちらの言い分が正しいかどうかの前に感情的な溝が深くなる。それにより、職場環境はより悪化してしまうのではないでしょうか。

――たとえば、上司側はパワハラ/セクハラのつもりは全くないのに、部下側がそう受け止めてしまうケースは起こり得ると思います。そうならないために、どのような予防策が必要でしょうか。

川上さん ハラスメントは飽くまで主観的な概念なだけに、代表的なケースを事例として挙げることはできても、実際は受け手側の感じ方によって異なるため該当基準は曖昧です。
予防策としては、ハラスメントに該当しやすいさまざまなケースを会社が研修などで学ばせることもひとつだと思います。もっとも、なによりも職場の雰囲気をいい状態に保っておくことが大前提になります。
そうすれば、ハラスメントしているつもりはない振る舞いなのに、ハラスメントだと受け止められてしまう可能性を減らすことができるからです。

ハラスメントだと感じる境界線は人によって異なる

――社員一人ひとりの意識として大事なことは?

川上さん 職場にいる誰しもがハラスメントの加害者にも被害者にもなる可能性があること。ハラスメントだと感じる境界線は人によって異なること。――こうしたことを全社員が認識しておく必要があります。冗談で言ったつもりの言葉がAさんにはウケて、Bさんにはハラスメントになる、ということは十分ありえることです。

――たとえば、いまの時代、部下を厳しく叱責することもはばかられることなのでしょうか。

川上さん パワハラになる可能性があるから厳しい叱責はNGかというと、そうとは限りません。重要なのは叱責の目的です。部下が同じ失敗をしないよう、あるいは部下の将来を考えて厳しいことも指摘するのは、上司として当然のことです。そんな教育的指導も、上司の役割のひとつだと言えます。
そして、部下の方に一方的な悪意でもない限り、100%部下にとっての利益を考えての言動は、想いが伝わるものです。言葉が拙くても、想いには言葉を超えて「伝わる力」があります。
問題になるケースの多くは、上司が自分の感情に任せて叱責してしまうことによって起きます。それは、表向きは「部下のため」と言いつつ、実態はただ感情を吐き出したいだけで、部下のためではなく自分のための行動でしかありません。この点には十分気を付けたほうがいいでしょう。

――感情任せの叱責ではないのに、それでも上司の振る舞いに部下が誤解してしまう場合はどうしたら?

川上さん 上司側がアプローチの仕方を変えない限り、部下の耳に言葉が届かなくなってしまいます。部下の方はハラスメントだと受け止めているため、感情の壁ができてしまっているからです。
ただ、上司にパワハラ/セクハラなどのつもりが全くなければ、素直にアプローチの仕方を変えられないかもしれません。その場合、上司は、自分の上司や他の社員など第三者にどう見えているかを確認するなどして、自分の振る舞いを客観的に把握することが第一歩となります。

職場の状態が「ブラックボックス」にならないよう

――会社としてはどのような対応が必要でしょうか。

川上さん ハラスメントの相談窓口を設置して、かつ、社内に周知することで、誰もが相談できる体制を整える。そして、職場の状態が「ブラックボックス」にならないよう注視する必要があります。
予防策については、研修などを行って日々の振る舞いがハラスメントに該当しないか、セルフチェックできるよう啓発に努めること。そして、上司が職場の雰囲気をいい状態に保つよう努めているか、感情に任せて叱責していないかなど状況変化を注意して見ておくことが肝要です。
もし上司が上手く対処できていないようなら示唆を与え、自力での対処が難しそうなら適宜介入するなどして軌道修正させなければ、職場状態が悪化してハラスメントの温床となりかねません。

――反対に、ハラスメントが起きてしまったあと、社員にはどのようなフォローが必要でしょうか。

川上さん ハラスメントが取り沙汰されている時点で感情的な軋轢ができてしまっていると考えられるため、上司は適切に対処できず、会社が速やかに介入しなければ、立場が弱い部下はより大きなダメージを受けてしまうことが危惧されます。
会社は、本当に上司がハラスメントを行ったのか、あるいは逆に部下によるハラハラなのかといった状態を、第三者の立場から冷静に見極める必要があります。

――客観的な立場が必要なのですね。

川上さん ハラスメントの相談窓口の設置は法律でも定められていることです。ただ、相談窓口は、客観的な立場から、上司の圧力に屈せずに対応できなければ社員は安心して利用することができず機能しません。
ハラスメントが事実だと確認された場合、相談窓口は、加害者がたとえ社長であったとしても処罰できるような独立した権限を持っている必要があります。

ハラスメント対策に王道なし

――最後に、ハラハラ含めハラスメントのない職場環境をつくるために、会社や社員の意識としてどのようなことを大事にしたらよいでしょうか。

川上さん 職場には職場の数だけ特徴があるので、ハラスメントのない職場環境をつくるためにどんな職場でも必ずうまくいく「魔法の言葉」や「方程式」などは存在しません。また、人はそれぞれ育ってきた環境も価値観も異なるのですから、誤解を完全に防ぐこともできません。
ハラスメント対策に、王道などないのだと思います。しかし、職場にいる誰もが互いにわかりあえたいい状態となるよう、努力することはできるはずです。職場をいい状態にすれば、ハラスメントは生じにくく、誤解が生じても解けやすくなります。

――職場での人間関係に尽きますね。

川上さん 職場の人間関係をいい状態にするうえで最も重要なのは、個々の立場や考えを一方的に押しつけないことです。そして、上司や部下といった立場の違いや性別の違い、考え方の違いなど、それぞれの違いをありのままに受け入れ、お互いを尊重し合うことではないでしょうか。
そんな、尊重し合う関係性こそが、ハラスメントのない職場をつくるうえで欠かすことのできない土台となるのだと思います。


【プロフィール】
川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう):ワークスタイル研究家/1973年、三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業をはじめ複数企業で管理職・役員を歴任。現在は、人材サービスの公益的発展を考える会 主宰、ヒトラボ編集長、しゅふJOB総研 研究顧問のほか、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。

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