電車内では、大きなトラブルに発展しなくても、見知らぬ乗客から理不尽な言動を受けて恐怖を感じたという人もいる。
日本民営鉄道協会が2025年12月に発表した「駅と電車内の迷惑行為ランキング」では、「座席の座り方(詰めない・足を伸ばす等)」が2位にランクインした。公共交通機関では、周囲への配慮を欠いた言動にストレスを感じる利用者が多いようだ。
神奈川県在住の中村悠里さん(仮名・40代)は、大学時代に経験した忘れられない出来事を振り返る。
足元に「コツン」 最初は電車の揺れだと思っていたが
中村さんは大学時代、片道約2時間半かけて電車通学をしていた。
「長時間の移動だったので、いつも音楽を聴きながら外を眺めるのが習慣でした」
その日も大学帰りに、友人と電車へ乗り込み途中の乗り換え駅で別れたという。中村さんは、吊り革につかまりながら立っていた。
しばらくすると、足元へ「何か」が当たる感覚があった。
「コツンという感じでした」
最初は電車の揺れによるものだと思ったが、その後も何度も同じ感覚が続いたそうだ。不思議に思って足元を見ると、目の前に座っていた中年男性の皮靴が、中村さんの靴へ触れていた。
「たまたまかと思って、立つ位置を少しずらしました」
しかし、それでも終わらなかった。男性は再び足を動かし、なぜか中村さんの靴へ当ててきたという。
「その時には、『あ、これはわざとだ』と思いました」
理由も分からないまま続いた「威圧」
中村さんは、恐怖を感じ始めた。「本当は、その場から離れたかった」と振り返る。しかし、その時間帯は帰宅ラッシュ。車内は混雑しており、そう簡単には移動できなかった。
中村さんは勇気を出して、男性の顔を見た。すると――。
「ものすごい形相で睨まれていました。驚きよりも先に、不気味さを感じましたね。男性は、怒っているというより、異様な雰囲気だったんです」
中村さんには、なぜ蹴られるのか心当たりがなかった。まったく理由が分からないのだ。それでも男性は、足先で小刻みに蹴るような動きを続けていたという。
それ以上関わることを避けるため、中村さんはイヤホンから流れる音楽と、窓の外の景色へ意識を向け続けた。
「早く乗り換え駅に到着してほしい。そればかり考えていました」
結局、大きなトラブルには発展しなかったが、その出来事は今も強く印象に残っているようだ。
「満員電車で、理由も分からないまま理不尽な行動を向けられる怖さを、この時初めて知りました」
公共交通機関は、不特定多数の人が利用する。何気ない行動が、相手へ大きな不安や恐怖を与えることもある。トラブルへ発展しなくても、心に長く残る出来事になる場合があることを、忘れてはいけない。