電車の優先席は、高齢者や障がいのある人、妊娠中の人、体調が優れない人などが利用しやすいように設けられている。国土交通省も優先席の利用マナーについて、「妊娠初期の方は外見上判別が困難で、体調不良を抱えている場合がある」として、マタニティーマークを見につけた人への配慮を呼びかけている。しかし、見た目だけで判断され、心ない言葉をかけられてしまう人も少なくない。山田美咲さん(仮名・30代)は妊娠中、優先席で忘れられない出来事を経験した。立っているだけでも気分が悪かった日に当時、山田さんは妊娠初期だった。重症悪阻(じゅうしょうおそ)のため定期的に通院しており、その日も診察を終えて帰宅する途中だったという。「立っているだけでも気分が悪く、電車では優先席に座りました」妊娠初期だったため、お腹はまだ目立たない。周囲に事情が伝わるよう、バッグにつけたマタニティーマークが見えるように膝の上へ置いていた。しばらくすると、旅行帰りだと思われるスーツケースを持った年配の女性2人が乗車。空席がなかったため、2人は山田さんの前へ立った。そして、聞こえるくらいの声で話しはじめた。「最近は若い人でも平気で優先席に座るわよね」自分のことを言われているのだと、すぐにわかったそうだ。「席を譲るべきなのか迷いました。でも、その日は立ち続けることが本当につらかったんです」そのまま座っていると、一人の女性がマタニティーマークに気がついた。「あら、妊婦さんだわ」。山田さんは、「気づいてもらえてよかった」と安心したという。「妊娠中でも若い人は立つべき」という忘れられない一言しかし、安心したのも束の間。もう一人の女性が、こう言ったのだ。「でも、妊娠中でも若い人は立つべきよね」山田さんは、まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかった。思わず相手を見ると、女性は気まずそうに視線をそらし、その後は旅行の思い出話を始めたという。山田さんは、目的の駅に着くまでの時間がいつも以上に長く感じられたと振り返った。「周囲の目線まで気になってしまって、居心地の悪さをずっと感じていました」あの日から時間がたった今でも、当時の出来事を思い出すことがあるという。一方で、「自分が誰かに席を譲る立場になった時は、年齢だけで判断せず、体調が悪そうな人や困っている人に声をかけたいという気持ちは変わりません」と話す。妊娠初期や持病、治療中など、外見からは分からない事情を抱えながら優先席を利用している人もいる。優先席では見た目だけで判断せず、一人ひとりにさまざまな事情があることを想像する姿勢が、誰もが利用しやすい環境につながっていく。
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