「カメラのいらないテレビ電話」と銘打って2026年3月18日に始まったコミュニケーションアプリ「POPOPO」が、9月17日でサービスを終了する。開始からわずか半年でのスピード撤退となる。
POPOPOは、顔を映す代わりに「ホロスーツ」と呼ばれる3Dアバターを使い、最大30人で会話できるSNS型の通話アプリだ。音声に合わせてアバターの表情やカメラアングルが変わり、不特定多数に向けてライブ配信することもできた。月額800円のプレミアム会員や有料アバターを収益源とし、当初は100万ダウンロードを目標に掲げていた。
30億円では足りない?豪華な顔ぶれでも利用目的は伝わらず
「ニコニコ動画」を生み出したドワンゴ創業者の川上量生氏が私財を投じ、西村博之氏、GACKT氏、庵野秀明氏ら著名人が取締役に就任。利用者の中から抽選で1人に1億円が当たるキャンペーンまで打ち出し、鳴り物入りでスタートした。
しかし、著名人が取締役に並んだことと、日常的に使いたくなることは別問題だ。アプリを使ったユーザーからは、実態はテレビ電話というよりアバターによる音声配信に近いが、配信系サービスで重要なアーカイブ機能がなく、何をすればいいのかわかりにくいとの声もあった。
川上氏は終了発表後、自身のXでPOPOPOに初期投資として約30億円の私財を投じたと告白。そのうえで、
「30億ぽっちで勝とうとはずうずうしかった」
「最低でも300億ぐらいは必要だった」
などと反省の弁を述べた。
もちろん、投資額を10倍にすれば成功したとは限らない。だが、利用者が増えるほど価値が高まるSNS系サービスでは、開発費だけでなく、広告宣伝、コンテンツの供給、クリエイター支援など、膨大な支出が必要になる。すでに巨大な基盤を持つ海外勢に、新規サービスが数十億円規模の初期投資で挑む難しさは否定できない。
mixi、ニコニコ、検索エンジンも...海外サービスに連敗の歴史
国産SNSの苦戦は、POPOPOに限らない。
2004年に始まったmixiは、招待制SNSとして一時代を築いたが、その後XやFacebook、Instagramなど海外発サービスの普及によって王座から転落した。Yahoo! JAPANがmixiの対抗馬として展開した招待制SNS「Yahoo! Days」も定着できず、2011年に終了している。
GREEやDeNAのMobageは存続しているが、SNSとしての存在感は薄れ、ゲームプラットフォームとしての性格が強くなっている。
動画投稿サービスでは、2006年に始まったニコニコ動画が「歌ってみた」「踊ってみた」などの独自の創作文化を生み出し、ボーカロイドブームとも交わって隆盛した。現在も根強い利用者を抱えてはいるが、一般的な動画投稿サービスの王者はYouTubeであり、大きな差がついてしまった感は否めない。
検索エンジンの歴史は、より象徴的だ。NTT系の「goo」は1997年、東芝系の「FreshEye」は1998年に始まり、ともにGoogleより早く日本語検索を提供した。しかし、世界規模でデータを集め、検索広告の利益を技術開発へ再投資するGoogleには対抗できなかった。
一方で、PayPayやメルカリ、楽天市場など、国内で生まれて定着したサービスもある。LINEも韓国企業の日本法人が日本市場向けに開発し、生活インフラと呼べる規模まで成長した。「日本発」だから必ず失敗するわけではない。
しかし、SNSはXやInstagram、動画はYouTubeやTikTok、ショッピングはAmazon、映画やドラマはNetflixと、日本人のデジタル生活が海外サービスに大きく依存しているのは事実だ。
国主導による調達としては、世界最大級の規模に
日本はもうデジタル分野で海外に勝てないのか──。そんななか、次のデジタル開発競争の主戦場となるのがAI(人工知能)だ。アメリカや中国が先行し、すでにChatGPTなどの海外発サービスが日本にも浸透しているが、日本も指をくわえて見ているわけではない。
2026年7月16日、国産AIの基盤開発を目指す企業連合が正式に発足した。ソフトバンク、ソニーグループ、ホンダなどが参加し、各社は開発の中核を担う新会社「Noetra」に出資している。重点を置くのは、工場の機械やロボットなどを自律的に動かす「フィジカルAI」だ。AIに生産現場で蓄積されたデータを取り込み、競争力の向上につなげる狙いがある。
国も開発と運用に最大1兆円を投じる。米エヌビディアの次世代AI半導体「ルービン」を約2万7500基導入し、2028年にも大規模なAI計算拠点を稼働させる計画だ。国主導による調達としては、世界最大級の規模になるという。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOは7月16日、経済産業省のイベントでスピーチし、
「日本自らが『ジャパンAI』を所有し、向上させ、活用していかなければならない」
と述べた(17日付のロイター)。
政府が最大1兆円を投じる「国家的プロジェクト」となるAI事業の成否は、日本のデジタル開発競争の未来を映す試金石になりそうだ。