通勤・通学で利用する機会の多い電車。多くの人が静かに過ごす車内では、乗客同士のトラブルが思わぬ騒動へ発展してしまうこともある。
国土交通省は公共交通機関の利用者に対し、周囲への配慮やマナーを守るよう呼びかけている。一方、実際の車内では口論や迷惑行為などに遭遇し戸惑う人も少なくない。
佐藤健一さん(仮名・30代)は、仕事帰りの電車で忘れられない出来事を目撃した。
仲裁に入った男性が足を滑らせ、車内は騒然
その日、佐藤さんは仕事を終え、いつものように電車で帰宅していた。
「車内は少し混んでいましたが、みなさん静かにスマホを見たり目を閉じたりしていました」
しばらくすると、少し離れた場所から大きな声が聞こえてきた。
その方向を見ると、二人の中高年男性が向かい合って激しく口論していたという。きっかけは分からないものの、お互い一歩も引かず、次第に声は大きくなっていったそうだ。
周囲の乗客も異変には気づいていたが、関わらないように視線をそらしていた。その時だった。
「騒ぎを見ていた一人の男性が突然立ち上がって、『うるせえんだよ!』と叫びながら二人のもとへ向かったんです」
ところが、その男性は勢いよく踏み出した瞬間、足を滑らしてしまった。体が前方へ投げ出され、そのまま口論していた男性の一人にぶつかったという。
「狙って蹴ったのか、本当に滑っただけだったのかは分かりません。でも、見た目は『ドロップキック』のようになっていていました」
その後、電車が駅へ到着すると、ぶつかられた男性は周囲の乗客に促されるようにしてホームへ降りた。
騒ぎは、ようやく収まったかに思えた――。
一駅先で再び口論 最後は乗客のやさしいひと言で
しかし、騒動はそれで終わらなかったようだ。
「私が乗っていた路線と並行して走る別路線の電車も、次の駅で同じホームに停車するんです。ドアが開くと、そこには先ほど降ろされた男性が立っていました」
顔を見合わせた瞬間、二人は再び口論を始め車内には緊張が走った。
今度は、周囲の乗客が次々と仲裁に入り、二人の間に立ちながら落ち着くよう声をかけていたという。しばらくして、一人の男性がようやく電車を降りると、もう一人が興奮した様子で何かをつぶやき続けていた。
そんな中、仲裁に入っていた乗客の一人が声をかけた。
「何か嫌なことでもあったの?」
そのひと言をきっかけに、男性は次第に落ち着きを取り戻していったそうだ。
「詳しい話までは聞こえませんでしたが、慰めるように話しかけていた印象でした。男性も途中から何も言わず、黙って話を聞いていたように見えました」
驚きの連続だった出来事を振り返り、佐藤さんは、「最後は怒鳴り合いではなく相手を気遣う言葉で空気が変わったことが、一番印象に残っています」と振り返る。
トラブルに遭遇して、無理に仲裁へ入ることで危険が生じる場合があるかもしれない。一方で、状況が落ち着いた後の何気ない声かけが、張り詰めた空気を和らげるきっかけになることもある。