2026年7月22日、熊本県合志市のコンビニエンスストアで強盗事件が発生した。
駆けつけた警察官が包丁を捨てるよう説得したうえで発砲し、21歳の男が右肩と右の太ももを負傷、公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕された。
その一部始終は録画されており、テレビで繰り返し放送された。
Tシャツ姿に包丁を持った痩せ型の男ひとりに、盾を持って武装した警察官が発砲した姿に、ネットを中心に銃の使用が「妥当なのか」と話題になった。
警察は拳銃の取り扱いが適正だったかについて「現在調査中」としている。
警察官が発砲するための判断基準は4段階
警察官が拳銃を発砲するためのルールは、「警察官等けん銃使用及び取扱い規範」に定められている。
この規範は2001年に、一部だが大きく改正された。警察官の拳銃使用を、正当防衛や逮捕、逃走防止などの場面ごとに「取出し」「構え」「威嚇射撃」「相手に向けて撃つ」の4段階に分けて、判断基準を明確にしている。
また、発砲予告と、可能であれば安全な方向への威嚇射撃が原則とされるが、緊急性が高い場合は省略できることも明記されている。
この規範が改正された理由を、警察庁は改正前の「必要最小限度でけん銃を構えまたは撃つことができる」といった抽象的な表現が、現場で警察官が過度に使用をためらう要因になっていたと説明している。
当時、東京都議会でも警察官の武器使用のあり方が議論された際には、警告や威嚇射撃の手順を踏むうちに凶器で反撃を受け殉職した警察官のケースも引かれ、受傷事故の多発を背景に、より機動的な使用を可能にすべきだという意見も出たという。
こうして「撃ちやすく」なったように見えた規範改正だが、その2年後となる2003年、奈良県大和郡山市で警察官2人が車上ねらいの疑いで逃走する車両に発砲し、1人を死亡させる事案が発生した。
警察官2人は検察が不起訴としたものの、遺族の付審判請求により、裁判員裁判で殺人などの罪に問われた。遺族はあわせて、約1億1800万円の国家賠償も求めた。
刑事は無罪、民事も請求棄却となったが、事件から決着までに約10年を要している。
薬きょうまで本部に送付させる
現場の警察官は、状況を見て即座に「適正」な判断を求められるだけではなく、拳銃を使ったあとには非常に細かな手続きが待っている。
いや、正確に言えば、一発も撃たずに銃を構えただけでも厳格なルールが適用されるのだ。
愛知県警の「拳銃・警棒等の使用及び取扱要綱」には、「拳銃を使用した場合」とは、相手に向けて構えた場合と撃った場合の双方を指し、警察官は直ちに日時・場所・危害の内容・使用の理由を所属長に報告しなければならないことが記されている。
報告は首席監察官を経て警察本部長まで上がり、所管所属長が「拳銃の使用についての適正又は不適正の判断を行うために必要な調査等」を行うと明記され、薬きょうまで本部に送付させることになっている。
これらは、警察官を疑うための制度ではなく、国家が市民に銃口を向けた事実を記録に残すための制度だと言えるだろう。
ちなみに、威嚇射撃は空砲ではなく、上空その他の安全な方向へ実弾を撃つ行為で、その薬きょうを見つけなければいけないことになる。
警察官には、警棒と拳銃の間に武器がない
制服警察官が携行しているのは警察手帳、耐刃防護衣、手錠、警棒・拳銃、携帯無線機・無線受令機、警笛となっており、このうち制圧に使う武器は警棒と拳銃だけだ。
そもそも、至近距離から対象を叩くための警棒と、殺傷力の高い拳銃との間に、制圧のための武器がないのである。
アメリカやカナダの警察では、対象に2本の針を刺し、電流で5?10秒間行動不能にする、低致死性のテーザーガンが配備されている。
松原仁氏は、衆院議員だった2021年以降たびたび、テーザーガンの採用を求める質問主意書を提出している。
だが、時の政府は「新たな装備資機材の整備及び活用の在り方については、引き続き検討中である」という答弁にとどまっている。
今年、最新作が公開される『踊る大捜査線』の名台詞ではないが、事件は現場で起きている。
事件の凶悪化が叫ばれる日本において、現場に即した議論が速やかに行われるべきではないだろうか。