杉田敦・法政大教授(政治理論)は朝日新聞(2026年7月24日)でのコメントで「人気投票によってつくられた権力は独裁的になる」と、「独裁」という言葉を使っている。高市内閣の国会運営などを批判したものだが、独裁、専制と言えば日本人はまずロシアや中国を思い起こす。まさか日本がロシアや中国のようにと思うが、ポピュリスト指導者にその芽があるというのが、杉田教授の指摘だ。
「職権16連発」「37年間で初の消費減税決定」
2026年7月30日、高市早苗首相が飲食料品の消費税率を引き下げる方針を先行して打ち出し、その後に党内意見の集約を指示したことに対し、自民党内から反発の声が公然と噴き出した。自民党税制調査会のインナーと呼ばれる副会長を辞任した小渕優子氏をはじめ、やはり副会長の古川禎久・幹事長代理など、党内から、財源論など議論不足を指摘する声が公然と上がった。しかし、自民党内の議論は数日間で終了、「税調会長に一任」されたのを受けて、5日に政府は閣議決定した。
史上最大の「316議席」を自民党が獲得した直後の2月中旬にスタートした特別国会は、交代したばかりの予算委員長(自民)が、委員会採決日程などの決定に「16回の職権」を乱発、「予算案の年度内成立を急ぐ高市首相の意向を受けた強硬路線」で突進した。
杉田教授のコメントを改めて引用すると、「歴史的に見て、人気投票によってつくられた権力は独裁的になり、議会を必ず邪険にする。高市さんはナポレオンなど典型的なポピュリスト指導者の轍(てつ)を踏んでいる」と断じている。
独裁、専制の中国、ロシアにも「国会」はあるが
現代の独裁、専制国家とされる中国にもロシアにも、「国会」はある。
中国には「全人代」=「全国人民代表大会」があり、憲法では「国家の最高権力機関」とされ、共産党幹部や各省、軍などで選ばれた約3000人の代表が法律や国家予算案を審査する。ただ、その実権は共産党が握っており、共産党の決定が覆ることはほぼない。
ロシアにも、上院(連邦院、170議席)と下院(国会院、450議席)からなる「連邦会議」があるが、「大統領制の下」に置かれる。下院議員だけが選挙で選ばれるが、「統一ロシア」など、ウクライナ侵攻を支持するプーチン与党が議席を独占している。
いずれも国会は、形だけに過ぎず、大統領や国家主席には、憲法改正による制限なき任期を許している。
「議論によって国の進路を誤らずに済む」
議会制民主主義の日本では、高市批判は基本的に自由だ。ただ、自民党内の議論を追い越していち早く消費減税を表明した高市首相を横目に、古川・幹事長代理が明らかにした「意見書」には、こうあった。
「自民党は、70年の歴史を重ねる中で、党内の意見集約・意思決定のルールをみずから醸成し、形づくってきました。たとえ高市総裁の『悲願』でも、党の手続きやルールを蔑(ないがし)ろにすべきではありません。ここで強引に取りまとめを図るなら(中略)党運営とガバナンスに深刻なダメージを負うことになります」。
長谷部恭男・早大教授(憲法)は、「議論」の重要さをこう説く。
「圧倒的多数を持っているから、自分の好きなようにやればいい、というのは大いなる勘違いで、異なる立場の人と公の場で議論することによって初めて気づくことがある。国の針路を誤らずに済むから、中長期的に見れば権力者自身のためになる」(朝日新聞)
「衆議院の再議決」が浮上 「危険な賭け」
2026年7月に終わった特別国会の最終局面で、維新との政権合意にあった副首都法などを成立させるために「60日間ルール」が浮上した。衆議院で可決された法案が参議院で60日以内に採決されない場合、否決されたとみなすことができる仕組みだ。
憲法59条第2項にある「衆議院の優越規定」のひとつ。小泉純一郎政権当時の2005年に与党(公明と連立)が3分の2を獲得、その後の08年1月に「補給支援特別措置法案」で衆参の議決が異なったため、51年ぶりに、衆院の再議決が行われた。その後09年に総選挙で、与党が3分の2を失うまで、たびたび「再議決」が行われた。
ただ、先の終盤国会では、自民党内から、「一度再議決を使うと、全野党を敵に回す結果となり、次の参議院選(28年7月)まで、野党と交渉できなくなる恐れがある」との反対意見が出て、定数削減法案は継続審議になった経緯がある。
それが秋の臨時国会で再浮上している。そこに、「ポピュリズムの芽」はないか。
(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)