人気観光地では、多くの旅行者が訪れることで、地域住民の日常生活に影響が及ぶこともある。ある有名観光地近くで暮らしていた宮本美香さん(仮名・40代)も、観光客の多さによって日常生活への影響を感じていたという。観光客の多さで日常が麻痺するようだった夫の転勤をきっかけに、ある有名観光地近くにあるマンションへ引っ越し、そこで約2年間暮らした宮本さん。「古い町並みが残っていて、四季の景色もきれいでした。(そのような生活は)とても新鮮でした」一方、実際に暮らしてみて驚いたのが、観光シーズンの混雑だったそうだ。「主要なバス停に長い列ができて、地元の人でも通勤や通学でバスに乗るために待たなければならないことがありました。東京のラッシュとはまた違って、観光客の多さで普段の生活が動きにくい感覚がありました」そして、宮本さんが何より心を痛めたのが、当時小学生だった娘の身に起こった出来事だった。真っ赤なランドセルを背負った小学生が歩く姿が珍しかったのか、外国人観光客から写真を撮られたり、話しかけられたりすることがあったという。最初の出来事は、引っ越してから数週間ほど経った頃だった。「娘が、学校から泣きながら帰ってきたんです」理由を尋ねると、娘はこう話した。「知らない人がずっと私のことを撮っていて怖かった」下校途中、見知らぬ外国人観光客から突然、至近距離でカメラを向けられたというのだ。ランドセルを触られ「何を言っているのか分からなかった」その後も、似たような出来事が何度か続いた。「娘に悪意をもって近づいているわけではないことは、私にも分かっていました。ランドセルを背負った日本の小学生が珍しくて、かわいいと思って写真を撮りたかったのだと思います」突然カメラを向けられるだけでなく、なかにはランドセルに手を触れたり、娘に話しかけたりする観光客もいたという。「早口だし、日本語じゃないから何を言われているのか分からなくて怖かった」と宮本さんに話したそうだ。同じような経験が続いたことで、娘はやがて観光客の多い道を避けるようになった。「少し遠回りになっても、裏道を通って帰るようになりました。自分が住んでいる街なのに、子どもが観光客を避けないとならない状況は、親として複雑でしたね」その後、宮本さん一家はその地を離れ、首都圏へ戻った。それから何年も経ったが、娘には当時の出来事が今も印象に残っているという。「中学校の面談で先生から、『将来は観光地に住む人の日常をサポートする仕事がしたい、と話していましたよ』と聞いたんです。あの経験が、娘のなかにずっと残っているんだと思います」観光地には、旅行者にとって魅力的な風景がある一方で、そこで生活を送る人たちもいる。珍しい光景で出会ったとしても、相手の気持ちに配慮する必要があるだろう。
記事に戻る