俳優で歌手の小泉今日子さんが2026年1月から5月にかけて開催した全国ツアー「KK60 ~コイズミ記念館~ KYOKO KOIZUMI TOUR 2026」(全国31公演)で注目を集めていたことがあった。
それは、全国ツアーと連動して行われた「明日の森プロジェクト」。このプロジェクトでは、寄付を通じて、宮城県の栗駒山にどんぐりの木を植え、育て、「どんぐりの森づくり」という夢を実現したいと、参加の輪を呼びかけていた。
それにしても、なぜ小泉今日子さんが環境問題に関心を? プロジェクトのきっかけは? どうしてどんぐりの森なのか? 全国ツアーの最終公演後から年内の休養に入っている小泉今日子さんをはじめ、プロジェクトメンバーのキーパーソンに、2026年8月に都内で行われた「アスモリ鼎談」の収録後に話を聞いた。
ラジオ番組で話題になったクマの問題、トークがきっかけに
「人と自然が、無理なく共に生きていける未来をつくりたい」
小泉さんのそんな思いと呼びかけから、「明日の森プロジェクト」はスタートした。クマなどの野生動物と共に生きるためには「森そのものの循環を少しずつ取り戻していく」ことが必要だ。そのために、どんぐりの木を植え、木が根づき、森となるまでしっかり育てていく――森づくりの活動に注目した。
アイデアのきっかけは、小泉さんとUPDATERの代表取締役・大石英司さんがパーソナリティをつとめる、TBSラジオのサステナビリティ番組「サステバ」での出来事だった。
小泉さんはJ-CASTニュースの取材に、「『サステバ』でクマの問題のお便りを読んだことがあり、その時に、この問題を解決するには森の環境が整えばそういうことは減るのではと、そんな話になったんです」と明かす。すごいのは話した内容がすぐに実現に向かって、それもスピーディに走り出したことだ。
全国ツアーでお祝いの花や贈り物を辞退したワケ
大石さんが「その収録のあとすぐに電話したんですよ」という相手は、NPO法人エコラ倶楽部の理事長・大井明弘さんだった。大石さん率いるUPDATERはエコラ倶楽部に賛同し、以前からともに環境活動に取り組んでいて、親しい間柄だ。
話はすぐにまとまり、「明日の森プロジェクト」は、小泉今日子さんが代表を務める株式会社明後日、エコラ倶楽部(長野県諏訪郡)、再生可能エネルギーの普及で独自の事業を展開するUPDATER(東京都世田谷区)の3者による合同プロジェクトとして取り組むことになった。
小泉さんは「全国ツアーが控えていたこともあり、その場を通じて広くこの思いを伝え、呼びかけることもできそうでしたから、『このツアーを機にやりましょう』とプロジェクトがどんどん決まっていきました」と振り返る。
プロジェクトでユニークなのは、小泉さん自身が、全国ツアーではファンから届くお祝いの花や贈り物を辞退することにしたことだ。その気持ちは、「未来の森づくり」へつなげてほしいと、寄付を呼びかけた。小泉さんは次のように話す。
「お花はとてもありがたいことですが、一方で切り花なので何日かしたら枯れてしまい片づけることになりますし、お花一基はそれなりの金額ですから、以前から気になっていたことでした。そこで今回、私はお花やプレゼントは辞退させていただき、その分は寄付していただく――『明日の森プロジェクト』と連動してそんな提案をしたんですね。みんなと同じ目標に向かっていく好循環が生まれるのではないかと考えました」
6口でどんぐりの苗木1本分に
UPDATERの代表・大石さんは、鼎談の中で、「企業の植樹活動は行われていますが、(植樹したあとは)けっこうな確率で放置されている。放置すると余計に(森が)荒れる。木も伸び放題、間伐もされていない。すると(森に)入れなくなってしまう」といい、森づくりの活動は、木を植えるだけでなく、その後の手入れも大事だと指摘する。
手入れを行わないと、木が重なり合って育つことになり、地面に太陽の光が届かず、木の一本一本が十分に成長しなくなってしまう。太陽の光が十分届く環境の中で、豊かな森は生まれる。だからこそ「明日の森プロジェクト」では、その後の手入れまで見据えている。
今回、森づくりへの寄付は、エシカルECサイト「TADORi」(運営:UPDATER)を通じて1口1000円から受け付けた。6口でどんぐりの苗木1本分を植えることにつながる。
目標は、どんぐりの木、3000本分とした。小泉さんのYouTubeチャンネルで26年4月17日に公開された中間報告の動画では、達成率28.76%=苗木863本分の寄付があったことを紹介(動画が撮影された4月5日時点)。その後、7月16日時点で達成率69%=2094本分に。さらに9月1日時点では、達成率82%=2458本分に到達したことが明かされた。寄付人数は2715人だ。少しずつ、地道に参加の輪が広がってきた。
秋には植樹へ...マイヘルメット、マイ長靴、マイ手袋を用意して
プロジェクトのゴールのひとつとして、この秋、宮城県栗駒山で植樹が行われる。どんぐりの苗木3000本を1週間ほどかけて、約50人の人手で植えていく予定だ。植樹を担うエコラ倶楽部の大井明弘さんはこう話す。
「ただ植えるだけでは枯れる可能性もあるし、苗が育つ前に動物に食べられてしまわないように、ハイトシェルターと呼ばれる苗木を守るための傘のようなものもかぶせていく。ちなみに、ハイトシェルターの支柱の部分は今回、竹を活用する予定です(※注:一般的には支柱はプラスチック製)。いずれにしても、そういうことをしながらなので、1人1日10本くらい植えるペースになると思います。植樹する場所は斜面もあるので、そこも大変なポイントです」
植樹には小泉さんも参加するといい、「責任があることですし、きちんと自分の目で見て伝えられたらと思います」。ちなみに、植樹に必要な道具をそろえる準備も万端だという小泉さん。「やる気満々です」と意気込む。「マイメット(マイヘルメット)も買わないといけない。お借りしたものが(サイズがあわなくて)ブカブカで歩けないことになったらすごく悔しくなりそうなので」という。ほかにマイ長靴、マイ手袋も準備したいと話していた。
小泉さんがこうした環境問題に関心を持ち始めたのは、20代後半の頃のことだという。1990年代になってエコロジーという言葉が言われ始めたその頃、自身の生活が整えられるようになったタイミングでもあり、以来、自分の周囲にも目を向け、環境問題などを気にかけてきた。長く関心を持ち続けてきたテーマが今回、「明日の森プロジェクト」というかたちで実を結んだ。次世代へつなぐ思いを小泉さんはこう話してくれた。
「森がきちんと育たないと水もきれいに育たないし、自然はすべてが循環しています。自然の循環を取り戻すことによって、さらにその好循環を次の世代につなげていくことができれば、私も『少しは何かできたかな』という気持ちになれそうだなと感じています」
どんぐりが実を結ぶまでに10年ほどが、豊かな森になるまでにはさらに長い年月がかかるという。