ドキュメンタリー映画「沼影市民プール」の公式Xアカウントが2026年9月16日、「上映後の質疑応答、およびインターネット上において、性的マイノリティの方に対する差別的・侮蔑的な発言」があったとして、声明を発表した。
「海なき市にプールを」誕生から解体までの歴史描く
「沼影市民プール」は、かつて埼玉県浦和市(現・さいたま市)で親しまれた「沼プー」こと「沼影市民プール」が解体に至るまでの49日間の記録を描いたドキュメンタリー作品だ。ヨーロッパを中心とした12以上の国際映画祭で上映され、9月5日より全国公開されている。
大阪・西成区の飛田新地やあいりんセンター、三角公園などに息づく人々の姿を描いた作品「解放区」でも知られる俳優で映画監督の太田信吾さんが監督を務めた。
「蔑称が繰り返し使用され、さらに揶揄するような質問・発言」
映画公式Xアカウントは16日、質疑応答やネット上での反響について、「制作チームとして、この出来事を重く受け止めています」として声明文を公開した。
添付された声明によると、上映後のトークイベントの質疑応答で「本作に登場する性的マイノリティの方について、蔑称が繰り返し使用され、さらに揶揄するような質問・発言」があったという。インターネット上でも、匿名で同様の行為が確認されているとした。
なお、作品紹介では、プールについて「沼影市民プールは、子どもたちの遊び場であり、高齢者の健康づくりの場であり、そして時には名前のない出会いや関係性が生まれる場所でもあった」と説明。
「夏になると県内外から多くの性的マイノリティの男性が集まり、公共空間のなかで独自のコミュニティが形成されていた。本作はそうした利用者たちとも関係を築きながら、この場所が持っていた多層的な意味を記録している」としていた。
「自由な議論と差別的・侮蔑的な表現を許容、同じではない」
一連の問題について、制作チームは「制作・上映に携わる立場として、質疑応答の場としてこうした場面を作り出してしまったことについて重く受け止めています」とコメント。
同作について「ひとつの公共施設がなくなっていく過程で、その場所に集っていたさまざまな人々の記憶と存在を記録した映画です」とした上で、「制作チームは、年齢や職業、立場、性的指向などの違いによって、誰かの存在や記憶が排除されたり、異質なものとして扱われたりすることを望んでいません」とつづった。
映画館について「誰もが安心して映画を楽しみ、作品について考えて語ることのできる場所であってほしい」とし、「質疑応答では最大限自由闊達な議論ができる場にしたいと考えておりますが、自由に議論するということと、特定の属性を持つ人々に対する差別的・侮蔑的な表現を許容することは、同じではないと考えています」とした。
今後については、「今後の上映後トークや質疑応答においては、差別的・侮辱的な発言や特定の個人や属性を揶揄するような発言はお控えいただく旨を事前にご案内するなど、より安心してご参加いただける環境づくりに努めてまいります」としている。
「複雑さを、複雑なまま映画に残したかった」
監督の太田氏もこの投稿を引用し、自身のXを通じて映画の一部登場人物について「インターネット上などで、『デブ専とフケ専門のホモ』『ホモが発展行為をして非常に迷惑』『珍獣扱い』といった明らかに特定の方々を卑下するような発言のほか、映画になぜゲイの人たちを登場させたのか、そのこと自体を問うような投稿が確認できます」と説明した。
その上で、「撮影中、プールという公共空間において、ルールや法に抵触しうる一部の行為を私自身が目にしたことも事実です。それらをけして肯定するつもりはありません」としつつ「しかし、個々の人間による問題行為と、その人の性的指向や属性とは分けて考える必要があります」とつづった。
「私が撮りたかったのは、誰かにとって都合よく整理された『市民』の姿ではありません。同じ公共空間を、それぞれ異なる事情や記憶や身体を持った人たちが使っていた。その複雑さを、複雑なまま映画に残したかった」としている。