電車内で飲み物をこぼしてしまえば、周囲の乗客にも悪影響が及ぶ。ましてや混雑した車内では、濡れた床で足を滑らせる人が出る可能性があるだろう。
日本民営鉄道協会が公表した「2025年度 駅と電車内の迷惑行為ランキング」によると、「ゴミ・ペットボトル等の放置」は9位、「混雑した車内での飲食」は14位だった。
数年前、子どもや友人たちとプールへ出かけた高橋紗季さん(仮名・20代)は、帰りの電車で、飲み物をこぼした女性がそのまま立ち去る場面に遭遇した。
「キャアー!」直後に缶が車内を転がり始めた
この日、高橋さんたちは新宿駅から電車に乗った。夕方の車内は、仕事帰りと思われる乗客で混み合っていたという。
「私は、ドアのところに背中をもたれかけるように立っていました。途中の駅から、缶の飲み物を持った20代くらいの女性が乗ってきたんです」
女性は金髪で、明るいピンク色のタンクトップにジーンズのショートパンツ姿だった。足元がややふらついていたこともあり、高橋さんの目にとまった。
電車が発車して間もなく、甲高い声が聞こえた。
「突然、『キャアー!』という声がして、見てみると、その女性がうずくまっていました。バッグの中を慌てて確認しているようでした」
同時に、「カラカラ」という音が車内に響いた。先ほど女性が持っていた缶が床を転がっていた。
「電車が次の駅に近づいてスピードを落とすと、缶がまた転がっていきました。缶の中身も床にどんどん広がっていました」
そして、電車が駅に到着してドアが開いた瞬間だった。
「かがんでいた女性が突然立ち上がって、人混みをかき分けるようにして降りていきました」
女性は、こぼれた飲み物や缶を残したまま、あっという間にホームへ姿を消したという。
プール帰りの友人が突然バスタオルを取り出して...
車内には飲み物の甘いニオイが残り、床には液体が広がっていた。
「みんなが唖然としていました。年配の女性が転がっていた缶を拾ってくれて、ほかにもハンカチやティッシュを出そうとしている人がいました」
そのとき、一緒にいた友人が、バックの中からバスタオルを取り出した。
「プールで使っていたものです。友人が『すみません』と声をかけながら、床にバスタオルを広げ始めたんです」
その光景を見た高橋さんも、自分のバスタオルを取り出した。
「私も『すみません』と言いながら、友人のタオルと重ならないように広げました。かなりの量の液体を吸ったので、周りの人から一斉に見られている感じがしました」
そのまま2駅ほど乗車し、高橋さんたちはバスタオルを回収して電車を降りた。飲み物を吸ったタオルからは、水滴がポタポタと垂れていたという。
「降りたとき、後ろから小さな拍手が聞こえました。振り返ると、車内の人たちが笑顔で私たちを見ていました」
一方、ホームでは、濡れたバスタオルを持つ2人に不思議そうな視線が向けられたそうだ。
突然起きた出来事だったが、友人がすぐにバスタオルを取り出したことで、高橋さんも行動に移すことができた。
「こぼした本人が、電車を降りてしまったことには驚きました。ただ、もし自分が同じような場面に遭遇したら、どう行動するだろうと今でも思い出すことがあります」
公共交通機関では、ちょっとした不注意が周囲の乗客にも影響を与えることがある。車内を汚してしまった場合、そのままにせず、乗務員や駅員に申し出るなどの対応が必要だ。