2024年 4月 24日 (水)

上はホワイト、下はブラック… 富士山のような日本企業の身分制度を崩せ

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   海外では、幹部候補はシビアな競争環境にさらされるのが当たり前で、選別の末に強力なリーダーだけが残ります。それ以外の人たちの競争はゆるやかで、労働法規が適用され、残業はなく定時に帰れます。その代わり昇進はほとんどなく、年齢を重ねても給与は変わりません。

   責任の重さや得られる報酬から考えて、これは合理的なしくみといえます。一方、日本の場合は、なぜか幹部候補にホワイトな労働環境が保証され、それ以外はブラック労働という見事な逆転現象が起きてしまっています。まるで冠雪する富士山のようです。

   こうなってしまうのも、日本のキャリア制度が本質的に正社員=幹部候補を守る「身分制」になっているからです。私は日本の労働問題を解くカギは、このあたりにあるのではないかと思っています。

「アップorアウト」プロフェッショナルの厳しい選別

上は真っ白、下は真っ暗。なぜか見事な逆転現象が起きている
上は真っ白、下は真っ暗。なぜか見事な逆転現象が起きている

   外資系の投資銀行やコンサルティングといったプロフェッショナル色の強い会社では、「アップorアウト」というキャリア制度が採用されています。社員はアップ(昇進)するか、さもなくばアウトするか(会社を去るか)という選択肢を迫られるという意味です。

   たとえばコンサルティングの会社の場合、新卒で入社するとだいたい3年くらいで次の職位に上がる機会が訪れます。アナリストやアソシエイトという名前から、コンサルタントやシニアアソシエイトといった名前に昇進します。

   ここが1つのスクリーニング(選別)のタイミングになります。昇進できるかどうかは実力主義で、新卒で入社した人すべてが昇進できるわけではありません。およそボトム2割くらいは昇進ができないこともあります。

   昇進できない人はどうなるのか。もう1年頑張って次の年に昇進するチャンスにかける人もいれば、その時点で自分には向いていない、ついていけないと考えて辞める人もいます。

   1年留年しても昇進できなければ、ほぼ確実に辞めます。自分に向いていない仕事を続けるよりも、早めにキャリアチェンジして別の可能性に賭けた方がいいからです。

   このハードルをクリアできても、3年後にはマネージャー職に昇進するためのハードルが待っています。マネージャーのあとはシニアマネージャー、その後はディレクター、パートナーといったハードルが待ち構えていて常にスクリーニング圧力がかかっています。

   こういうしくみによって常に人材が入れ替わり、組織に新陳代謝があります。いわゆる「大量採用して、できるやつだけを引き上げる」というやり方に近いでしょう。

「それなりに優秀」では生き残れない40歳定年制

   サバイバル率は会社によって違いますが、パートナーと呼ばれるクラスになれるのは10人から20人に1人。毎年海外のMBAを卒業した人材が中途入社してきますが、中途のほうが成果を求められるスパンが短く、2年ほどで選別されてダメな人は一掃されてしまいます。

   実はここまで極端ではないものの、サムスンやLGなどの韓国企業も事実上の「アップorアウト」です。30歳くらいまでは会社に残れますが、そこから強烈な選抜が始まります。

   30代を生き残るのが難しく、40歳になってマネジメントができない人はどんどん首を切られてしまう。サムスンが「40歳定年制」といわれるのはそんなカラクリがあるのです。

   この仕組みには、いくつかのメリットがあります。

・選抜システムなので、できる人は飛び級のように飛び越えて一気に昇進する。年功や昇進のための滞留年数などはなく、できる人はどんどん出世する
・昇進すれば給与はポジションに応じて上がる。若くても昇進すれば給与があがる
・自分より役職が上の人は(競争に勝ち残った人なので)、大概は自分より仕事ができる。アホな上司にあたる可能性が非常に少なく、健全なピラミッド構造になる
・自分の向き不向きや、やっていけるかどうかが分かるので、ダメな人は自分で早めに損切りすれば、別のキャリアで開花させられる(そういう事例はたくさんある)
・社員のモチベーション、向上意欲が高くなる

   一方、デメリットとしては「競争競争で職場の雰囲気が殺伐となる」「そこそこの仕事ができるそれなりに優秀な人でも会社を辞めざるを得なくなる」「常に全力疾走を強いられるので身体が持たない」といった側面もあります。

幹部コースとホワイト労働のキャリアを「完全に分ける」

   もちろん、日本の会社でも“選抜”は行われています。30歳前半のリーダーまでは普通に横並びで昇進するが、その後は厳しい選抜にあいます。典型例は官僚組織で、同期のうち1人の事務次官を残して、残りはどんどん脱落していく仕組みになっています。

   ならば日本も外資も一緒じゃないか、と思われるかもしれませんが、最大かつもっとも重要な違いは「出世コースから外れた人でも給与と雇用が維持される」ところです。

   日本の会社の場合、昇進は望めないものの現場を中心にずっと働くことができます。官僚は関連機関に出向の形で雇用されます。役職手当はつかないものの年齢に応じた基本給はあるので、それなりの給与が貰える仕組みになっています。

   すると組織の中には「中途半端な肩書きがついた幹部になれないノンワーキングリッチ(働かないのに高給な人たち)」が居残ってしまいます。企業はいろんな手法で賃金カットをしていますが、彼らはそう簡単に既得権を手放しません。

   このままダメな人材を組織に囲い続け、年齢の高い人材に高い給与が払われるのではモチベーションが生まれません。かといって急にすべてを「アップorアウト」にするのは強烈すぎて実現性が低い。ならばこの問題の解決には「キャリアを完全に分ける」方式を採る必要があるでしょう。

   入社時あるいは入社数年後の時点で、過酷な競争をして上を目指すのか、ホワイトな定型業務の世界に生きるか、選択肢を用意するのです。

   競争コースで敗れた人には、別の職場を探してもらいます。ホワイトな世界にコース変更する選択肢もありますし、独立してもいいでしょう。欠かせないのは「正社員ならば競争に負けた人にも年齢に応じた高賃金が支払われる」という制度を消滅させることです。(大石哲之)

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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