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画期的な「年収の壁」解決法か? 「130万円の壁」見直しは時間がかかるので...時給が上がれば、扶養を外したくなる「時給相場の壁」に注目せよ!

   岸田文雄首相が、年収130万円など扶養枠の制度の見直しを進めると国会で発言した。いわゆる「年収の壁」があり、それ以上働くと扶養枠から外れて収入源になるため、非正規雇用の人々の就労意欲を奪っている現実があるからだ。

   そんななか、働く女性のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿)が2023年2月3日、「『130万円の壁』見直しには時間がかかりそう...でも時給が上がれば即解決できるかも」という調査結果を発表した。

   「年収の壁」より「時給相場の壁」に注目すれば、問題は解決する、という画期的な提案だ。いったい、どういうことか。

  • 「時給の壁」を乗り越えて、はつらつと働きたい(写真はイメージ)
    「時給の壁」を乗り越えて、はつらつと働きたい(写真はイメージ)
  • 「時給の壁」を乗り越えて、はつらつと働きたい(写真はイメージ)

「あなたはいくらの時給の仕事なら、扶養枠を外しますか?」

   所得が一定を超えて扶養家族の対象外になるなど、税や社会保険料の負担が生じる主な「年収の壁」には、次のようなものがある。

   パートタイムやアルバイトに所得税が発生する「103万円」。勤務先が一定条件を満たすと、厚生年金や健康保険に加入し、新たに社会保険料が発生する「106万円」。そして、夫の社会保険の扶養から外れる「130万円」。さらに、配偶者特別控除が減り始める「150万円」などだ。

   このうち、特に手取り収入への影響が大きいため、勤務日数や勤務時間の条件で強く意識されるのが、「106万円」と「130万円」の「社会保険料の壁」だ。

「年収の壁」の制度見直しに言及した岸田文雄首相
「年収の壁」の制度見直しに言及した岸田文雄首相

   岸田文雄首相は2023年2月1日の衆院予算委員会で、「年収の壁」が非正規労働者の就労意欲を奪って人出不足につながっているとして、「非正規雇用の労働者が、本人の希望に応じて活躍し、収入を増やしていけるようにすることが重要だ。制度を見直す」と述べた。しかし、具体的な対応策は何も決まっていない。

   そこで、「政府の制度変更は待っていられない。扶養を外してでも働きたくなる条件の仕事を世の中に増やしてはどうか。あなたはいくらの時給換算の仕事であれば扶養枠を外しますか、という観点で『時給相場の壁』を作ってみた」(しゅふJOB総研研究顧問の川上敬太郎氏)という企画が、「『時給相場の壁』一覧/扶養外しの希望指数」だ【図表1】。

(図表1)「時給相場の壁」一覧/扶養外し希望指数(しゅふJOB総研の作成)
(図表1)「時給相場の壁」一覧/扶養外し希望指数(しゅふJOB総研の作成)

   この「時給相場の壁」一覧は、しゅふJOB総研が2021年3月に行った調査「働く主婦・主夫層に聞く、扶養を外す時給ライン」をもとに作成した。

   主婦・主夫層の人々が選んだ希望時給枠をベースに時給相場の目安にまとめたものだ。かならずしも「年収130万円」などの、扶養枠上限を超えないようにするための時給目安シミュレーションではない。ただ、縦軸に「扶養外しの希望指数」(1~10)が刻まれており、扶養枠を外してやりがいのある仕事を目指したい人や、求人側の事業者には参考になるだろう。

   調査によると、主婦・主夫層の希望は、ここ数年で変化が見られる。勤務日数の希望で最も多いのは週3日。次いで、週4日、週5日。だが、週4日と5日を合わせた割合は、2018年時点で44.8%だったが、2022年では53.2%と過半数になった【図表2】。それだけ日数を増やして働きたい人が増えている。

(図表2)希望する勤務日数(しゅふJOB総研の作成)
(図表2)希望する勤務日数(しゅふJOB総研の作成)

   また、「時給換算でいくらの仕事があれば、扶養枠を外して働くことを選ぶか」と聞くと、「時給2000円以上であれば扶養枠を外して働くことを選ぶ」と回答した人が約9割に達した【図表3】。

(図表3)時給換算いくらの仕事なら扶養を外して働くことを選ぶか(しゅふJOB総研の作成)
(図表3)時給換算いくらの仕事なら扶養を外して働くことを選ぶか(しゅふJOB総研の作成)

「扶養枠を外すと、自分は頑張っているときっと思える」

   フリーコメントでも、扶養枠を外して働きた人たちの意見が相次いだ(カッコ内の金額は扶養枠を外す時給ライン)。

「週3~4のフルタイムで働きたい」(50代・パート/アルバイト:1800円)
「それぐらい収入があれば、扶養枠から外れても、夫も納得してくれそう」(40代:パート:2000円)
「非正規雇用でも家賃払える生活ができる」(50代・契約社員:1500円)
パートだが、扶養の壁を外してやりがいのある仕事をしたい(写真はイメージ)
パートだが、扶養の壁を外してやりがいのある仕事をしたい(写真はイメージ)
「不要枠を外すと家事や子供と関わる時間が大幅に減少するが、それでもこれだけの時給で働かせてもらえば、自分は頑張っていると思うことがきっとできる」(40代・契約社員:1800円)
「社会保険料などを引いた手取りで20万円は欲しい」(30代・パート:1500円)
「派遣は時給が高いことが多いが、たくさん働くなら1日に1万円以上稼げるところがよい」(30代・フリー:1400円)
「170万円ほどの年収だとフルタイムだし、社会保険で得をしているように思えないが、それでも働かないと家計的に厳しい」(30代・パート:1100円)

時給相場の2つの壁、「1500円の壁」と「2000円の壁」に注目を!

「年収の壁」より「時給の壁」にこそ注目を(写真はイメージ)
「年収の壁」より「時給の壁」にこそ注目を(写真はイメージ)

   しゅふJOB総研研究顧問の川上敬太郎氏はこうコメントしている。

「岸田首相が、年収130万円など扶養枠の制度について見直しを検討すると述べたと報じられています。しかし、既に社会に深く浸透している制度だけに見直しにはかなりの時間と労力がかかることが予想されます。
スキルや能力を活かせる仕事を提供することで、2000円を超える時給を支払っても、それに見合ったパフォーマンスが期待できる人材はまだまだ社会の中に埋もれています。扶養を外してでも働きたくなるような条件の仕事を世の中に増やしてはどうか、というのがしゅふJOB総研からのご提案です。
就労抑制からの解放を目指す施策としてより即効性が高く、経済発展にも家計支援にも役立ちます。この『時給相場の壁』一覧は、時給がどの程度であればどれくらいの人が扶養を外して働くことを選択するかを図る目安です。パート採用をされる企業の方や、求人広告を取り扱う事業者の方などに、時給と扶養外しの関係性を把握する目安としてご利用いただければと思います。
時給相場には大きく2つの壁があります。1つは、半数以上が扶養を外して働くことを選ぶ『1500円の壁』。もう1つは、ほとんどの人が扶養を外すことを選ぶ『2000円の壁』。扶養枠の上限である『年収の壁』ではなく、扶養を外したくなる下限である『時給相場の壁』にこそ、ぜひ焦点を当てていただきたいと考えます」

(福田和郎)