2024年 5月 18日 (土)

2023年の賃上げ予定は? 小規模事業所へのアンケート結果は54.6%...やや意欲的か 背景には記録的な物価上昇、人材獲得競争

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   春闘の交渉結果が続々と報じられるなか、ところで中小企業の賃上げ水準はどのくらいなのだろうか?

   ネットオン(大阪府大阪市)が2023年3月29日に発表した、同社の採用業務クラウドの登録ユーザーである335社の中小事業所への「2023年の賃上げ予定に関するアンケート調査」によれば、54.6%の事業所が賃上げを実施予定ということが明らかになった。

   また、全体の63.4%が5%未満の範囲で賃上げを実施するという結果も出た。2月の全国の消費者物価指数の上昇幅が3.1%なので、このあたりの水準で賃上げが実現されるといいのだが。

  • 中小企業の賃上げ実施はどうなるのか?(画像はイメージです)
    中小企業の賃上げ実施はどうなるのか?(画像はイメージです)
  • 中小企業の賃上げ実施はどうなるのか?(画像はイメージです)

賃上げ行う事業所は54.6% 企業も「ベースアップの必要性を意識せざるを得ない状況」

   連合(日本労働組合総連合会)の3月の春季労使交渉における中間発表では、賃上げ率は平均で4.49%程度となる模様。最終回答で賃上げ要求が4%を超えれば、1998年以来の25年ぶりの高水準となる。

   いずれにしても、「賃上げ」への関心が高まっている中、ネットオンによる今回の調査は2023年3月9日から3月16日まで、同社製品「採用係長」を利用する全国の従業員規模が20人以下の事業所を中心に、「飲食」、「建築・不動産」、「介護・福祉」、「運輸」などさまざまな業界の人事・労務担当者からインターネットアンケートで回答を得た。有効回答数は335社。

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   はじめに、2023年度の賃上げ予定について聞くと、「54.6%」の事業所が「実施する予定」と回答し、過半数を超えた。2022年3月の調査と比較すると0.4ポイントの上昇となった。

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   続いて、初めの質問に「賃上げを実施する予定」とした企業に内容を尋ねると、半数以上の事業所が定期昇給とベースアップを行うことがわかった。企業が一時的な増額よりも、従業員にとって長期の安定につながる定期昇給とベースアップを優先するかたちとなった。

   同社では、

「今回の調査ではベースアップが前回調査(39.4%)から12ポイント上昇しています。ベースアップは長期にわたる人件費増が見込まれますが、その割合が増加した点からは、企業がベースアップの必要性を意識せざるを得ない状況にあることが読み取れる」

   とコメントしている。

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   また、賃上げ率は「2~3%未満」が「20.2%」、「1~2%未満」が「15.8%」、「1%未満」が「3.3%」、「3~4%未満」が「7.7%」、「4~5%未満」が「16.4%」という結果だった。全体の63.4%が、5%未満の範囲で賃上げを実施するという。

   ちなみに、2023年の春闘で傘下の労働組合が要求した賃上げ率が平均4.49%と発表しているので、この水準と近い賃上げ率を予定している企業は、4~5%未満を予定している「16.4%」が当てはまるということになるだろう。

賃上げの理由「従業員の生活安定」「人材定着」 一方で「賃上げしたくてもできない」の声も

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   つぎに、正社員と非正規雇用の分類で賃上げ対象をみると、「正社員と非正規社員の両方」と回答する企業は56.8%」と過半数を超えた。

   これについて同社では

「雇用形態に関わらず賃上げを実施する事業所が過半数を占めた一方で、30%以上が『正規雇用のみ』と回答しました。雇用形態による待遇格差が解消されていない現状を示す結果にもなっています」

   とまとめている。

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   賃上げをする理由については、「従業員の生活を支えるため」が「58.5%」で1位となり、2位の「従業員の定着率向上(引き留め)のため」も「52.5%」で、半数以上がいずれかを賃上げ理由として選択している。3位の「物価高騰による生活費増加に対応するため」も5割に迫っている。

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   一方で、「賃上げを実施する予定はない」と回答した企業に理由を聞くと、「業績の向上(回復)が見込まれていないため」を「47.4%」の事業所が選択している。

   次いで、「現在の賃金が適切であるため」(37.5%)となり、中小企業の厳しい経営状況がうかがえ、現状においては賃上げの必要性を感じていない事業所も少なくないようだ。

(ネットオンの作成)
(ネットオンの作成)

   そのうえで、全事業所に対して、物価高騰に対応するための特別手当を支給するかを聞くと、「すでに支給した」(9.9%)、「これから支給する」(5.1%)を合わせて「16%」の企業が手当を支給する意向が分かった。

   もっとも、今回の調査では、賃上げを実施する企業が過半数を超えている一方で、インフレ手当は大半の企業が支給しない結果となった。

   自由回答欄で賃上げを実施する企業の記述を見てみると、

・定着率の向上のためには必須(建築・不動産/5~9名/京都府)
・物価高ではあるが、企業にとっても資材価格が上がっていて賃上げは簡単ではない(建築・不動産/10~19名/京都府)
・成長を続けることにより待遇面を改善できるが、社員には危機感を持って行動してもらいたい(出版・印刷/10~19名/大阪府)

   という意見が上がる。

   反対に賃上げを実施しない企業の記述では、

・社会保険料の負担と物価高の影響が大きく、賃上げどころではない(介護・福祉/5~9名/茨城県)
・電力料の高騰の為したくてもできない(工場・製造/10~19名/愛知県)
・営業利益減少、経費増加の中での賃上げは難しい(教育/~4名/大阪府)

   などが挙がっている。

   同社では総括として

「賃上げ状況は横ばいではありますが、賃上げ内容については『定期昇給』または『ベースアップ』を実施する事業所がそれぞれ50%以上。特に企業にとって人件費増につながる『ベースアップ』を実施する事業所の割合が前年(39.4%)よりも増加した点は、記録的な物価上昇や激しさを増す人材獲得競争などを背景に、給与水準の引き上げが避けられない状況にあることを示しているのかもしれません」
「一方、賃上げを『実施しない予定』の事業所は全体の45.4%です。その半数近くが『業績の向上(回復)が見込めない』ことを理由として挙げており、『賃上げしたくてもできない』という意見も散見されました。
2023年度は大手主要企業が高水準の賃上げを予定しており、中小企業との格差拡大が懸念されていますが、今回の調査結果からは中小企業間における格差の広がりも進んでいることがうかがえます」

   とのコメントを出している。

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