『HEARTSTATION』宇多田ヒカル/2008年3月19日発売TOCT-26600/3059円EMIミュージック・ジャパン出だしは、昔話。藤圭子の話。1969年「新宿の女」でデビューした藤圭子は、「怨歌」歌手として、今時の言い方をすれば大ブレークした。東北の片田舎で、浪曲師と三味線・瞽女(ごぜ)の母の間に生まれ、父と母の旅回りに同行し、雪深い地方を巡業して歩いた少女が、突如、東京という町に現れ一気に人々の心をわしづかみにした。戦後という言葉が薄れかけ、全共闘世代が世界を相手に戦いを挑んでいた、戦後昭和の最もディープな時と景色の中に、藤圭子は睨むような目で立っていた。そして「怨歌」を少しハスキーでドスの効いた声で歌った。まったく時代の申し子とでもいうべき歌手だった。70年に出した2枚のアルバムが連続37週オリコン・チャートの1位で在り続けたという途方もない記録も打ち立てている。宇多田ヒカルは、その藤圭子の愛娘だが、両親が音楽家、アメリカで生まれ突如日本でデビューし大ブレークした。全くよく似ている。平成というバブル崩壊を痛み続ける時代の中で、宇多田は母がそうであったように、決して自分のスタンスを崩す事も失う事もなく、時代を切り取って歌う。母は歌手・前川清と結婚・離婚を経験し、およそ10年の活動で引退、再デビューしたりもしたが、居をアメリカに移し宇多田照實と再婚、ヒカルを生んだ。宇多田もまた結婚・離婚を経験しているが、そこから先が母と違う。宇多田の活動は、体調の悪化での小休止はあるものの、常に日本のミュージックシーンを引っ張り続けるもの。99年のファーストアルバムは、700万枚を超え世界市場も合わせれば累計1000万枚を超えた。2ndアルバムも400万枚超え、3rdアルバムも400万枚近い売り上げを記録している。これまでのアルバムは、累計ですべてミリオン超えを果たしている。そして、5枚目のアルバムがこの『HEARTSTATION』。06年後半からのシングルを網羅し、宇多田の世界が揺ぎなく描かれている。聴いていると、これまでとはまた少し違う宇多田の素直でピュアな心根が見える。傑作です。これから先も、宇多田は、歌い続けるだろう。話は変わるが、藤圭子は実はカヴァー曲を歌う事が多かった。「夢は夜ひらく」だって、園マリのリメイクだった。楽曲を、オリジナルを超えた自分の世界のものにしてしまう歌う力を持っていたのだ。実は宇多田ヒカルも同じだ。尾崎豊を歌ったりする宇多田だが、完全に自分の歌にしてしまっている。そこは、やはりよく似ている。【HEARTSTATION収録曲】1.FightTheBlues2.HEARTSTATION3.BeautifulWorld4.FlavorOfLife-BalladVersion-5.StayGold6.Kiss&Cry7.GentleBeastInterlude8.Celebrate9.PrisonerOfLove10.テイク 511.ぼくはくま12.虹色バス[BonusTrack]13.FlavorOfLife
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