女性フォークの新しいカタチ 「ブルー」を歌う「阿部芙蓉美」

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『ブルーズ』
阿部芙蓉美/2008年4月30日発売
期間限定生産盤(CD+DVD)FLCF-4232 3300円  通常盤FLCF-4233 2800円
フォーライフミュージック


   70年代、女性フォーク系歌手の一大ムーブメントがあった。大きく3つの流れがあり、ひとつはよりポップな流れで、荒井由美を代表とするもの。ひとつは陰と陽でいえば陽の流れで、イルカを代表とするもの。

   そしてもうひとつが、大きな陰の流れ。そこには淺川マキ、五輪真弓、りりィ、カルメン・マキ、山崎ハコ、森田童子などなどがいた。それこそ時代を見事に切り取った女性の目があった。その中に、佐井好子という名を加えなくてはならない。

   佐井はわずか4枚のアルバムを発表し実質4年で歌手活動に終止符を打った。フォークではあるのだがその最後のアルバムはジャジーなサウンドで、他のミュージシャンとは一線を画した。

   その詞の世界は、女の情念をベースに昭和初期の「新青年」を舞台とした作家群、乱歩、横溝、久生十蘭、小栗虫太郎、夢野久作、橘外男といった伝奇小説作家の世界観をも取り込んだ独特のものだった。2000年を超えて、一時期活動を再開したらしいが、残念ながら音源を耳にすることはなかった。それにしても今は目にも耳にもすることのできないのが口惜しい。

   その佐井の世界観とはもちろん違うのだが、同じ匂いを感じる女性アーティストが、今回紹介する阿部芙蓉美だ。阿部も佐井も並べて語られる事には抵抗があるだろうが、1人の聴き手として語ることを許して欲しい。

   佐井もそうだったが、阿部も実際に会って話すと少女のような純粋さと、濃い女性としての佇まいがあった。そして、非常にはっきりと自分以外の世界との距離感を保っている。

   阿部の1stアルバム『ブルーズ』というタイトルは、多くの少女が胸の奥に溜め込んでいる「ブルー」な気持ちの複数形であり、アフリカ系アメリカ人のブルースではない。この「ブルー」を複数形にしてしまう発想が、凄い。

   そのサウンドは、明らかにフォークだが、本人はそんなことはあまり気にもしていないようだ。「良い曲は誰が歌っても良い曲」という阿部の言葉には、ある屹立とした音楽への姿勢がある。ひょっとすると自信の裏打ちなのか、あるいは怖いもの知らずなのか……。

   時代が寵児を生むように、時代は音楽をも育む。そして育まれた音楽は、まるで相似形のようなアーティストを時を経て産み落とす事がある。僕は阿部芙蓉美を聴いて佐井好子を思い浮かべたが、山崎ハコを思い出す人も、森田童子を思い出す人もいるかもしれない。だが、今の時代に生き生きといるのは、阿部芙蓉美だと言う事だけはハッキリしている。


【ブルーズ 収録曲】

1.ドライフラワー
2.on saturday
3.群青 ~album mix
4.太陽 (the swelling sun)
5.開け放つ窓 ~piano version
6.trip -うちへかえろ-
7.さみしいときはどうしている
8.なみだは乾かない
9.青春と路地
10.ぼくら平凡
11.chill
12.planetary


「青春と路地」VIDEO SPOT

◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70〜80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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