2024年 4月 24日 (水)

蛍と戯れているような光と音 300個の「風鈴」企画展

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   オカムラデザインスペースRでは毎年7月に企画展をしている。ここでの企画は「建築家と建築以外の領域の表現者との恊働」という決まりがあって、今回の建築家は伊東豊雄さん、そして建築以外の表現者は若手のグループ、タクラム・デザイン・エンジニアリング。どちらもよく知っているけれど、この組み合せで何が生まれるのか楽しみにしながら、先日レセプションの会場に行った。

光を連れ、音を連れて歩いているような気持ちに

「風鈴」に見立てたワイングラスが幻想的な雰囲気を作り出す
「風鈴」に見立てたワイングラスが幻想的な雰囲気を作り出す

   その会場はニューオータニ・ガーデンコートの3階にあって、普段は岡村製作所の商品のショールームとして使われている。この空間の、天井を除くすべての面が黒で覆われていた。白い天井からは300個の風鈴に見立てたワイングラスの形のガラスが等間隔に並べられている。高さは緩やかに波を打つように調整されている。この風景は伊東さんらしい優しさがある。

   中に入ってみるとまず自分のすぐ近くの「風鈴」が明るくなり、チリンと鳴る。続いてその周辺の「風鈴」が明るくなり、チリンと鳴る。これが連鎖し、少し先で納まっていく。歩きながらみていくと、光を連れ、音を連れて歩いているような気持ちになる。光はLEDの青みを感じる白だけれど、ほわんと明るくなる姿は優しさがある。歩いている自分を取り巻くように音と光があって、なんだか蛍と戯れているような感覚だ。

   タクラムの田川欣哉さんが会場にいたので、仕組みについて伺った。それぞれの「風鈴」の上にセンサーが仕込んであって、それが隣り合う6つの「風鈴」に影響を与える。次の瞬間には周辺からの影響を最初の「風鈴」が受ける。こうして全体が群れとして動く仕組み。音は電子音では面白みがないので、天井に取り付けた丸い躯体の中に鉄琴があって、それをハンマーで叩いている。鉄琴の音量は相当に考えぬいた結果だろう。300個の「風鈴」の中にいながら、会話の邪魔にもならない。そして音楽もいらない。実に心地いい音と光だ。

1か月で取り壊すのは惜しい

歓談する田川欣哉、坂井直樹、伊東豊雄の各氏(左から)
歓談する田川欣哉、坂井直樹、伊東豊雄の各氏(左から)

   タクラムは面白い集団で、僕も彼らからこのところいろいろ学ばせてもらっている。デザインとエンジニアリングをつなげて何かを生み出すのが彼らの手法で、なかなか同じような手法をとれる集団はない。2007年は21_21デザインサイトでの"water"展で「ふるまい」と「時雨」という作品を生み出していた(タクラムのサイトのポートフォリオの中にビデオがあるので、ご覧ください)。ここでも計算づくで彼らは感動をくれた。

   今回もきっちり計算しつくしている。全体から細部まで設計しなければならない建築家との仕事は、案外彼らには合っているのかもしれない。でも、300個に予備まで、全部手作りでハンダ仕事も自分たちですから、と田川さんは笑いながら予備機を見せてくれた。会場では見えないようになっているけれど、見えない部分の手作業も丁寧に、そして綺麗に作られていた。伊東さんも満足な様子。

   1か月で取り壊すのはなんとも惜しい展示だ。8月22日まで。ちょっと涼みに行かれることをお勧めする。人があまりわさわさと動かない静かなバーの天井がこんな作りになっていたら、さぞ気持ちいい時間を生むことだろう。

坂井直樹




◆坂井 直樹 プロフィール

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

>>>emoTV ムービーのココロミ


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