「大萩康司」が友と奏でる  アルゼンチン楽器チヤランゴのリズム

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大萩康司
『風の道(CAMINO DEL VIENTO)』
VICC-60690
3150円
3月18日発売
Victor


   ギターを初めて手にしたのは14歳の時だった。もちろんすでにフォークギター(ウエスタンギターと言っていたような気もする)やエレキギターも楽器屋に行けば眺めることは出来たが、当時ギターと言えばクラシックギターのことで、クラシックギターと言えば、練習曲は「禁じられた遊び」と「アルハンブラの思い出」と相場は決まっていた。どこかで習うのではなくあくまで自己流の場合。この、ギターを始めるときの練習のための曲選は、今ではまったく別なのだろうな…。

   どちらもアルペジオを多用する哀愁漂う曲で、聴いた時の鮮烈な印象を、意外に初心者でも容易に再現できる。全曲を弾きこなせなくても、はじめの数小節を弾ければ、友達に自慢できた。そんな時代もあったのだ。半世紀近くも前の話だが……。

   だが、全曲となると難しく、大概は途中で挫折した。こちらもすぐに挫折して、フォークのストロークプレイに移行した。こちらはコードを押さえられれば、後はピッキングだけで、流行り歌の伴奏程度はすぐにできた。カラオケなどない時代で、ギターの伴奏で歌をうたった。だから1980年頃までは、ギターを弾ける奴は重宝がられた。

   そんな時でも、実は心の奥にクラシックギターの名曲「禁じられた遊び」と「アルハンブラの思い出」をフルで演奏したいという想いは残っていたのだ。そして弾ける人間を妙に尊敬してやまなかった。

   クラシックギター・プレイヤーへの尊崇の気持ちは、だから今でも残っていて、大萩康司は心から「スゴイ!」と思うのだ。流れるような指捌き、時にパーカッシヴでありながら、途切れることのない音の奔流……本当に同じ人間が弾いているのか? とまで思う。

   今度の『風の道』は、これまでカリブ、ブラジルと移動してきた音の旅を、アルゼンチンに移してのアルバムになった。アルゼンチンといえば、どういう訳か夕焼けをバックにパンパを疾駆するガウチョの姿を思い出すのだが、このアルバムを聴いて、そのイメージが僕の中で甦った。ヒナステラ、ピアソラなどアルゼンチンを代表する音楽家の曲をはじめ、大萩の友人でもある日本在住のアルゼンチン音楽家、アリエル・アッセルボーンの曲を収録していて、2人で一緒に演奏もしている。

   聞き捨てならないのは、アッセルボーンの生地、北部アルゼンチンの楽器・チヤランゴを演奏する時のチヤカレラ、クエーカというリズム。これまでに聴いた事のないもの。すべてが聴き応え充分で、何度も聴きたくなる音。

   やっぱり、昔刷り込まれた意識には逆らえないか……尊敬しちゃう。

【風の道(CAMINO DEL VIENTO)  収録曲】
1.エル・チョクロ *
2.老いた賢者
3.風の道
4.コントラマレア
<ギター・ソナタ>
5.I-前口上
6.II-スケルツオ
7.III-歌
8.IV-終曲
9.ラ・トランペーラ *
10.プレリュード~南米組曲より
<5つのタンゴ>
11.I-平原のタンゴ
12.II-ロマンティックなタンゴ
13.III-アクセントの利いたタンゴ
14.IV-うら悲しいタンゴ
15.V-伊達男のタンゴ
16.酔いどれたち *
17.ブエノスアイレスの冬
*Duo with アリエル・アッセルボーン


◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70〜80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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