【書評ウォッチ】企業の闇に挑んだ2人 巨額粉飾事件の元社長とジャーナリスト

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【2012年4月22日(日)の各紙から】日本が世界に誇る電子・光学機器メーカー、オリンパスで発覚した巨額の損失隠し。この実態を同社の内と外から明らかにした人間が2人いる。内部告発をしたために電撃解雇された元社長と疑惑をスクープした経済ジャーナリスト。どちらが欠けても、粉飾行為は闇に葬られ、元会長ら7人の逮捕には行き着かなかったろう。2人それぞれが書いた回顧録を、朝日がセットにする形で紹介している。巨悪と戦った2人の著書が同時並行的に出版されるのは珍しい。事件の衝撃がさめぬうちに関連本を紹介するのも書評のつとめだ。

「同時進行で描いたミステリー小説のような」

『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』
『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』

   ジャーナリストは『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)の山口義正氏。オリンパス社員の友人から得た情報を端緒に、1人で取材を始めた。昨夏、月刊誌で疑惑を世に問う。元社長は『解任』(早川書房)の著者、マイケル・ウッドフォード氏。山口氏の記事を読み、社長自身も知らない会社の闇に仰天したらしい。

   山口氏があげた疑惑追及の火の手は大手メディアに広がらなかった。他紙や他メディアのスクープに冷淡なのは、なかなか改まらないマスコミの体質だ。ウッドフォード氏のほうは、会長ら経営陣に説明を求めたことから解任されてしまう。2人はもがきながらも、企業の組織的な粉飾決算という迷宮を社内外から暴いていった。

   この回顧録2冊は「別々の視点から同時進行で描いたミステリー小説のようなのだ」と、評者の編集委員は受けとめている。

話題や関心にタイムリーな紹介記事を

   本の中で2人は見聞きした事実を可能な限り時系列を追って、克明に描く。感情的な部分はあるが、事件は本当に終わったのかと問いかける点もよく似ている。銀行や監査法人に責任はないのか、日本全体に同じ問題が起きてはいないかとの不安をぬぐいきれないのは著者2人や評者だけではないだろう。その問題を提起した紹介記事になっている。

   ほかでは、読売が『共喰い』(集英社)で芥川賞をとって話題をよんだ田中慎弥さんについて、読者からの投稿をまとめた。作家本人の原稿も載せた。読者と著者をつなごうという意欲が感じられる。これもある意味、話題や関心に呼応した企画といえそうだ。

   毎日には書評20年の「名作選」を刊行するとの社告。しかし、今の紙面は内容、レイアウトとも新鮮な企画があまりない。少なくともここしばらくは定型を脱せず、タイムリーなニュースセンスも足りない。「名作」「名書評」と1人で叫んでいる感じがする。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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