【書評ウォッチ】弱者の味方でお人よし 寅さん人気に無縁社会変革のカギが?

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   いつまでも人に親しまれる映画がある。大震災復興支援の映画巡回で最も人気を呼んだのは山田洋次監督の『男はつらいよ』だったという。その秘密は『山田洋次と寅さんの世界』(吉村英夫著、大月書店)がわかりやすい。東京新聞(Chunichi Bookwebにも)で、ノンフィクション作家・吉田司さんが寅さんの「人と人をつなげる親和力」の魅惑あふれる一冊として紹介。山田監督の実像とともに追究している。【2012年8月26日(日)の各紙からII】

宮沢賢治と渥美清と山田監督

『山田洋次と寅さんの世界』(吉村英夫著、大月書店)
『山田洋次と寅さんの世界』(吉村英夫著、大月書店)

   3・11直後に巻き起こったのは宮沢賢治の「雨にも負けず……」の大合唱と映画『男はつらいよ』のリクエストだったという。渥美清主演の寅さんは弱者の味方でお人よし、笑顔と癒しを感じさせるキャラクターが人をひきつけた。葛飾を舞台にした家族と地域の人情喜劇。「その笑いの力を自殺と孤独死が続く無縁社会変革のカギに使えないか」と本は訴える。

   評者の吉田さんは「山田洋次監督はなぜ家族映画作りが好きなのか」と謎解きを試みている。特に、「父母の離婚→家族崩壊というデラシネ(故郷喪失者)の山田の生育史は読ませる」と感心する。このへんは社会と人間への洞察に富んだ書評だ。

   映画が作られたのは、日本人が「総中流」だった時代。寅さん人気は「企業への忠勤に疲れたサラリーマン社会が失恋と放浪の旅の寅次郎に憧れたからだ」と評者は解する。ひるがえって、今はどうか。

   ホームレスや非正規雇用、就活の若者だけでなく、多くの失業者が企業の正規雇用を夢見る。彼らは「寅さんをどう見るだろうか」と評者は問いかける。

北杜夫をルーツとして再評価

   ほかには、北杜夫を「現代文学の秘められたルーツ」として再評価する日経の記事がおもしろい。「本の小径」という小さなコーナー。『文藝別冊 追悼総特集 北杜夫 どくとるマンボウ文学館』(河出書房新社)で、中でも40代から50代の現役作家や研究者が思春期以来影響を受けた存在としてとらえていると、筆者の宮川匡司編集委員が語る。

   芥川賞作家の磯崎憲一郎さん(47)は「太宰治や三島由紀夫から小説に入る人も多いのでしょうが、北杜夫はそれとはまた別の流れを作った人だと思います」。日本近代文学の研究者・石原千秋氏(56)は、戦争の影から「スコーンと抜けて」いる北文学の先駆性を指摘している。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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