【書評ウォッチ】日本農業に正しく絶望するには? 刺激的に問題をえぐる

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   日本の農業をどうするか。ものすごく長い議論の、社会全体にまで関わる複雑な課題だ。論点は多く、アプローチのし方も実にさまざま。なにしろアレコレもの申す自称専門家や学者、役人、農協職員その他周辺関係者の数が農業従事者数を軽く上回るともいわれる世界。関連書もあふれるほどあるが、そこに刺激的なタイトルの一冊『日本農業への正しい絶望法』(神門善久著、新潮新書)が加わった。

   「表層的な議論を一刀両断」「問題をえぐり出す試み」と、経済学者の中島隆信さんが読売新聞でとり上げた。数ある見解の一つとして冷静に読み込めば、矛盾と問題だらけの現状が見えてくる。【2012年10月28日(日)の各紙からII】

「熱心な若者はかえって迷惑」

『日本農業への正しい絶望法』(神門善久著、新潮新書)
『日本農業への正しい絶望法』(神門善久著、新潮新書)

   「4・6兆円の補助金を受けながら、3兆円の付加価値しか作り出せない日本の農業」という指摘で書評は始まる。これだけで刺激的だが、それでも「もっと補助金を」「大規模生産に助成を」といった声がたえない。どんな改革案にも必ず反論や抵抗や感情的反発がわき上がるのが、農業議論の特徴だ。その点を理解したうえで農家も消費者も本を選び、クールに考えなければいけない。そういう部類の一冊だろう。

   たとえば農水省肝いりの「担い手育成事業」という政策。農地の形を整えたり、農道を拡幅したりする公共事業だ。これで家が建てやすくなって、住宅地への転用を後押しする結果につながると本は分析する。「転用を考えている農家にとって、農業に熱心な若者はかえって迷惑な存在ですらあるというから皮肉な話だ」と評者。農業が衰退するわけだ。

消費者の食味も鈍化

   本はさらに、名ばかりの有機農法やマニュアル化された大規模生産などを容赦なく批判。消費者の食味の鈍化もやり玉に。食生活の乱れから消費者が品質を見分けられなくなる。すると自然、良品の供給が消えていくというのだ。

   農業と農政の頼りない現状は、この国全体の閉塞感と無縁ではない。補助金のぶんどり合いとばらまきは、もうやめないか。非効率な農政を変えるきっかけにしたい本だ。

   ほかに、農業関係では『稲の大東亜共栄圏』(藤原辰史著、吉川弘文館)と、これも変わったネーミングの本が東京新聞に。太平洋戦争期に日本がアジアでおしつけた品種改良米をめぐる農学史の一コマ。『東京満蒙開拓団』(東京の満蒙開拓団を知る会著、ゆまに書房)が朝日や読売などに。昭和初めの不況下で旧満州に送りだされたのは、まず東京にあふれた失業者だったという市民グループの調査記録。国策が誤ると、泣くのは庶民だ。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

   J-CASTニュースの新書籍サイト「BOOKウォッチ」でも記事を公開中。

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