2024年 4月 20日 (土)

霞ヶ関官僚が読む本
「正しさの衝突」の受け止め方 「自問自答」超えて「他問共答」を

   現在我が国は、官民一体となって、アベノミクスによる日本経済再生に向けた取り組みを急ピッチで進めている。他方、ここ数年で2度の政権交代を経て、政官の位置づけが変わり、かつての政策の正当性が大きくゆらぐなど、価値観の変転と衝突が起こっている。

   こうした中、一貫して職務に従事し続ける霞ヶ関の公務員にとって、何が「正しい」か自問自答する場面が増えている。

「利他的」と「利己的」

『「正しい」とは何か?』
『「正しい」とは何か?』

   この点、『「正しい」とは何か?』(武田邦彦著 小学館 2013年3月)が一つの有益な示唆を与えている。ご自身の専門分野である原子力発電技術やエネルギー価格問題を切り口とし、「正しさ」には一度セットされたら簡単に変わらない「慣性」があると同時に、時代により「移ろう」ものもあると指摘する(その人が経験した時代、年齢などによっても正しさが変わる)。

   また、周囲と調和しようとする「利他的な正しさ」を中心とする日本の徳目と、自己中心的な「利己的な正しさ」で理論武装してきたヨーロッパの倫理学という対比により、単なる「正しさ」の探求だけでは普遍的な価値を見いだせないことを明確にしている。こういう認識に立った上で、何かを決めるに当たり、「正しさ」を単純に衝突させるのではなく、他利的な視点を双方が尊重し、対立する両者の上位に立つ「仮の正しさ」を場面場面で適切に見出し、従うことにより、人間の関係性を再構築(認識)することの意義を強調している。

アメリカの相対化された「正しさ」

   国際関係に目を向けると、我が国は現在、日米関係の再構築も視野に入れ、TPP交渉への参加を目指している。こうした「相手の存在」を大前提とする国際関係においても「正しさ」の意味を少しでも正確に理解することが重要となるが、この点は「相手を知る」ことから始めるべきところが大きい。その意味で『アメリカが劣化した本当の理由』(コリン P.A. ジョーンズ 新潮社 2012年12月)は一つの視座を与えてくれる。

   我が国が学んだとされるアメリカ憲法の自由や民主主義は、時代と社会の変化により、その「正しさ」が相対化してきていることが例証されている。「1票の格差」を取ってみても、日本において問題になっていることがアメリカにおいて何ら問題となっていないこと(アメリカ上院における1票の格差は60倍)、アメリカが依然引きずっている課題(奴隷制度の名残や準州の格下扱いという現実と法の下の平等という建前の乖離)について、日本には「是正」を求める場面があることが説かれている。

経済再生への揺るぎない基盤形成へ

   こうした示唆により、我が国としては、日本だけを見るのではなく、周りとの関係から日本を見つめ直すことも必要であり、さらには過去や未来も見据えながら、排他的ではない、合意を目指すための「正しさ」を探求することが必要であることが改めて認識される。

   このような視座は政策分野にも応用が可能である。私は経済官庁において政策調整に従事する中で、「正しさ」の衝突をどう受け止め、いかに前に進むか考える機会が多いが、「日本の常識は世界の非常識」、「ガラパゴス」、「霞ヶ関は閉鎖的なピラミッド社会」といった評価を我々から積極的に変えていくこと、つまり我が国が胸を張って世界や相手と関わっていくことにより、「利他的な正しさ」「仮の正しさ」を共有することにつながり、日本の政策の腰が定まり、ひいては経済再生への揺るぎない基盤ができていくこととなるのではないかと感じている。その意味で、我々がまず行うべきことは、「自問自答」ではなく、「他問共答」ではないだろうか。

経済官庁(企画官級)七転び八起き

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【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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