2024年 5月 6日 (月)

霞ヶ関官僚が読む本
元禄貨幣改鋳、時代が早すぎた経済観

「勘定奉行 荻原重秀の生涯」(村井淳志著、集英社新書)

   荻原重秀は、五代将軍綱吉治世の元禄・宝永期の財務官僚である。著者同様筆者も日本史の授業で、彼が主導した元禄の貨幣改鋳は改鋳益を幕府にもたらしたが、物価の騰貴を招き経済を混乱させたと習った。これについて著者は、"荻原重秀の貨幣改鋳は、鋭い貨幣観に基づく適切な金融政策だった"とする近年の学説を紹介する。そして、重秀を悪人であると強烈にイメージづけしたのは、新井白石であると指摘している。白石は、自叙伝「折たく柴の木」で重秀がいかに悪人であるか異様な執拗さで述べており、現実政治においても、弾劾書を六代将軍家宣に繰り返し提出し、三度目には重秀を罷免しないなら自分が刺殺するとまで書いて、ついに蟄居そして変死に追い込むのである。

佐渡金山の産出量を回復

勘定奉行 荻原重秀の生涯
勘定奉行 荻原重秀の生涯

   重秀は勘定方の下級役人の次男に生まれたが、勘定方任用以来、「生得記憶強き儘、役筋のこと悉く誦んじ覚えて、即座に其理を応え…」という比類なき能力で昇進してゆく。検地事業で大いに事績を挙げて勘定組頭に抜擢された重秀は、「総御代官御勘定…相改むるべきの旨これを仰せ付けらる」、つまり代官会計検査を命ぜられた。彼は辣腕を振い、世襲代官制を一掃して代官の官僚化を推し進めた。次いで佐渡奉行兼務を命ぜられると、金産出量が大きく減少していた佐渡金山に思い切った資本投入を行い、大規模な排水溝掘削により産出量の回復に成功する。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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