2024年 5月 3日 (金)

霞ヶ関官僚が読む本
伝聞に依拠する危うさ示す 歴史を歪めた報道に挑戦したドキュメンタリー小説

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人間讃歌としての城山文学

   むろん、城山三郎の小説である。歴史への挑戦を一通り片づけた後には、いよいよ鈴木商店大活劇と相成る。

   主人公にして鼠のような風貌の金子直吉の発想力と純粋さ。支配人・西川文蔵の人柄。高商派の頭目たる高畑誠一の剛胆さ。登場人物は、いずれ劣らぬ光彩を放ち、勃興期にある若き日本の屋台骨を担う自負が横溢している。

   鈴木商店は、現在の神戸製鋼所、帝人、双日、太陽鉱工、日本製粉、J-オイルミルズ、ダイセル、サッポロビール、昭和シェル石油などにつながる原点となった総合商社である。鈴木の破綻は歴史的事実だが、破綻という将来に待つ運命を読者が知るからこそ、鈴木の隆盛と登場人物の痛快とも言うべき活躍は、一層その輝きを増す。

   そこでは、学生時代に洗礼を受けたという著者の、人間を観る温かさを感じる。そこまで考えて、著者が当時の新聞社の幹部に対しても、決して批判的な書き方をしないことに気付く。してみると本書は、歴史との対峙の書であるとともに、人間讃歌でもあろうか。

   当時の歪んだ報道やその後の偏向した研究に対する違和感は大いに示されるが、どのような局面であれ、個人を名指しで断罪することはない。本書の中盤に詳細に語られる長谷川如是閑との対話はまさにそうである。また、終盤にイニシャルで語られる鈴木商店のアウトロー?達の描写もそうである。

   人間は過つ。それを赦しつつ、しかし過ちをいかに防ぐか。現代日本の報道のあり方にも通じる本書の問いかけは重い。故城山三郎氏の偉業に改めて敬意を表するとともに、鈴木商店を原点とする各社の隆盛を心からお祈りしたい。

酔漢(経済官庁 Ⅰ種)

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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