2024年 4月 27日 (土)

転んでもただでは起きないベルリオーズの「ローマの謝肉祭」

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   シューマンの「謝肉祭」と名の付くピアノ曲集2つを取り上げてきたので、今週は、オーケストラ作品で「謝肉祭」と名の付く作品を取り上げます。シューマンよりは少し先輩になる、フランスの作曲家、エクトール・ベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」です。

  • 意志の強そうなベルリオーズの肖像
    意志の強そうなベルリオーズの肖像
  • ローマの謝肉祭、冒頭にも『サルタレロ』のリズムが現れる
    ローマの謝肉祭、冒頭にも『サルタレロ』のリズムが現れる
  • 意志の強そうなベルリオーズの肖像
  • ローマの謝肉祭、冒頭にも『サルタレロ』のリズムが現れる

パリに出て医学の修行、音楽に"転進"しイタリア留学

   ベルリオーズはこの連載でも「幻想交響曲」で登場しました(第42回)。ベートーヴェンが9曲の交響曲で究極の形――ダジャレのようですが当時の作曲家は誰しもそう感じていました――を提示してしまったために、「それ以後」の作曲家は苦労しました。特に最後の「第九」で、合唱というものを交響曲に持ち込んでクライマックスが作られたので、ベルリオーズは、これから書かれる交響曲にはもっとドラマがなければならぬ、と考えて、自身の失恋体験を投影した主人公の生涯を追体験するような表題を各楽章につけて、「幻想交響曲」に仕立て上げたのです。

   しかし、音楽によるドラマ、ということになると、オペラという形式以上にふさわしいものはありません。脚本と、演出と、演技と、歌と、器楽が結び付くオペラはまさに総合芸術と呼ぶのにふさわしい作品形態です。もともと父の職業を継ぐべく、医学の修行をするために生まれ故郷の南部フランスから首都パリに出てきたベルリオーズでしたが、パリで、音楽に魅せられ、音楽の勉強を自主的にするようになったのでした。そんな彼が足しげく通ったのは、パリ音楽院の図書館と、パリのオペラ座でした。オペラ座では、当時上演されていた、グルックのオペラなどを見ていたようです。その後、正式にパリ音楽院に入学し作曲を学び、当時の作曲家の登竜門として名高かった「ローマ大賞」にも何度も挑戦し、4回目にして、ようやく受賞することができました。ローマ大賞は1年間のローマへの留学が賞品となっているので、ベルリオーズは、ローマに暮らすことになり、その間に、自分の目でローマの謝肉祭を見たのでした。

   すでに、ローマ大賞受賞と同時期に「幻想交響曲」を完成させ、作曲家として名を知られるようになっていたベルリオーズですが、イタリア留学を経て、帰国後、本格オペラの作曲にとりかかります。題材は、イタリア・ルネッサンス期の彫刻家、ベンヴェヌート・チェッリーニを主人公にした、オペラでした。イタリア滞在中に、ベルリオーズはこの彫刻家の生涯にいたく感銘を受け、ぜひオペラ化したいと希望するようになっていたのです。

彫刻家の生涯をオペラ化した"原曲"は不人気で「お蔵入り」

   2年を費やして完成したオペラ「ベンヴェヌート・チェリーニ」は1838年、ベルリオーズ35歳の時にパリで初演されますが、結果的に大失敗となりました。

   原因はいくつも指摘されています。パリの聴衆にとって、イタリア・ルネッサンスの彫刻家が身近に感じられなかったこと、当時パリで流行の「グランドオペラ」のスタイルでなかったこと、ベルリオーズが大向こう受けを狙うより、自分の欲求に忠実な作曲家であったこと、また同時に、辛辣な批評家でもあったので、彼自身の作品の上演時には、周囲の逆襲にあったこと...などなど。とにかく、初演時は、4回上演されただけで、「お蔵入り」となったのでした。

   しかし、それでめげるベルリオーズではありません。そもそも自分の大失恋を「幻想交響曲」という形に昇華して出世作としてしまうぐらいのエネルギッシュな人です。彼は、オペラの中から、第1幕の男女の二重唱の主題と、第2幕の前に演奏される謝肉祭の熱狂を表す「サルタレロ」というイタリア風舞曲のテーマを組み合わせてオーケストラのみによる序曲を生み出したのです。タイトルも、親しみの無い彫刻家の名前から、誰にとってもわかりやすい「ローマの謝肉祭」というものに変えました。

    ベルリオーズ自身の指揮によって1844年初演されたこの曲は、初演時から大評判となり、今日では、彼の作品の中で最も頻繁に演奏される人気曲となっています。ベルリオーズは、「ベンヴェヌート・チェリーニ」の音楽の出来に自信を持っており、それを証明する形となったのです。1度の失敗ではめげない、ベルリオーズならではのこの作品、エネルギーにあふれ、ローマ法王もたびたび規制しようとした...というローマの謝肉祭の熱狂を感じることができます。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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