2024年 5月 1日 (水)

日本の精神医療の現場報告を、哲学や歴史の視点から読み解くことでみえてくるものがある

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歴史から読み解くと、みえてくるのは「後発国の哀しさ」

   我が国の精神医療が抱える構造は、実は日本の社会保障全体が抱える構造の縮図なのである。医療を全国に均霑する上で民間病院の整備に頼ったのは、精神医療だけではなく、医療全体にあてはまる。

   我が国は後発国として資本蓄積がないところから出発したことから、近代化の過程で高まる社会的ニーズにどうこたえるか頭を悩ますことになった。限られた資源は戦前であれば軍事、戦後であれば経済に充当する必要があり、社会保障の優先順位は決して高いものではなかった。国民は租税負担の増に敏感で、社会保障の充実のための財源は充分には確保されなかった。このことは、特に社会保険の枠組みから零れ落ちる社会的弱者への支援において、重要な制約として働いた。

   この資源制約の下で、サービス供給体制の整備はできる限り民間資源の活用によりおこなわれた。家族という伝統的共同体による保護を強調することで、サービスへの需要が顕在化しないよう管理が図られた。織田氏の報告によれば、病院を出ることができない人々が多数存在するのは、家族が引き取ろうとしないからであるとし、同時に、我が国では家族に保護責任を厳しく問い過ぎているとしている。

   哀しき後発国である。

   もちろん、我が国の社会保障における民間と家族の高い位置づけは悪いことばかりではない。むしろ、効率的で真に必要なニーズへのサービス提供への集中を可能にしていることは評価されてよい。

   ただ、物事には両面がある。病院に数十年おられる方々も、本評を読んでいるあなたも、もとはといえば、繰り返しのきかない人生を生きている同じひとりの人間なのである。そのことへの想像力を欠くことは許されない。相模原事件にもかかわらず、患者の地域への移行という大きな方向性には変更がないようである。すると今度は、我々ひとりひとりが想像をたくましくし、彼らを地域で受け入れていけるかどうかが問われるのだ。

経済官庁(課長級) Repugnant Conclusion

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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