2024年 4月 25日 (木)

家10件売っても買えないなんて... ヴァイオリンはなぜこんなに高いのか

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   いつもはクラシックの1曲にスポットを当てているこのコラムですが、今日は、気分を変えて、クラシックに欠かせない楽器、ヴァイオリンの誕生にスポットを当ててみたいと思います。

   なぜか・・というと、先日、知人が演奏している「アマティ」のヴァイオリンを間近で見せていただく機会があり、その魅力に魅せられてしまったからです。

  • 17世紀イタリア・クレモナで作られたヴァイオリンの名器の一部
    17世紀イタリア・クレモナで作られたヴァイオリンの名器の一部
  • 17世紀イタリア・クレモナで作られたヴァイオリンの名器の一部

16世紀ごろ突然ほぼ完全な形で誕生した

   よくヴァイオリンというと、名器「ストラディヴァリウス」がオークションでものすごい値段で落札された、とか、ヴァイオリニスト●●さんが使っている楽器は●億円の価値がある、などと、その天文学的な値段ばかりが話題に上ります。

   私の専門楽器であるピアノは、ヴァイオリンと比べると大きくて複雑な機構を持った工業工芸品ともいうべき楽器なので、現代に作られた楽器同士を比べるとピアノのほうが一般的に高価ですが、ヴァイオリンの「イタリア古典楽器」と呼ばれる16~17世紀の楽器は、それに代わるものがない、ということで、どんどん値段が上がり、一昔前ですと「家を売って楽器を買う」だったのですが、現在は「家10件売っても買えない」ぐらいのお値段になっているとも聞きます。

   でも、それはなぜなのでしょうか・・?

   それは、ヴァイオリンが北部イタリアで、16世紀ごろ突然ほぼ完全な形で誕生し、手工業品であるにもかかわらず、かなりの数の楽器が生産され、それらがあまりにも素晴らしい楽器であったために、その後・・・すなわち現代にいたるまで、ほぼ改良なく使われ、そのまま通用するために、「古いものほど価値がある」ということになってしまい、もちろん、古いものは消耗、減損してゆきますから、残存し、かつ状態が良いものはお値段が跳ね上がる・・・というわけなのです。

音楽の歴史を書き換えたヴァイオリン

   ヴァイオリンのように弦をこすって音を出す楽器のことを、「擦弦楽器」といいます。ルーツははっきりしておりませんが、中東・アラビアを中心に巨大な帝国となった中世イスラム圏の諸国で、盛んに使われた楽器たちが遠い祖先だったと考えられています。東に向かえば中国の馬頭琴などになり、西に向かえば北アフリカや地中海経由でヨーロッパの地に伝来しました。

   イスラム諸国からもたらされたであろう擦弦楽器は、様々な試行錯誤を繰り返しながら改良されていきます。現在では「復元された古楽器」として演奏されるヴィオラ・ダ・ガンバなどの「ヴィオール属」という楽器たちもかつては盛んに作られました。現代のように大ホールで何百人、何千人という聴衆を相手にすることはない、宮廷のサロンなどで演奏するときにのみ使う楽器には、音量性能はそれほど求められることはなかったのです。

   そして、16世紀の中頃、北イタリアの弦楽器職人のもとに、フランス宮廷からの弦楽器制作の依頼が舞い込みます。まとまった数が必要でしたし、宮廷からの依頼ですから報酬もそれなりだったでしょう、当時の最先端テクノロジーをつぎ込んで、イタリアの制作者たちは弦楽器を作ります。このあたりで、「ヴァイオリン」を筆頭とするヴァイオリン族が作られるようになったと、考えられています。

   現存する最古のヴァイオリンは16世紀後半に作られたものですが、絵画の中に確かにヴァイオリンの特徴を備えた楽器が登場するからです。ヴィオール族の楽器と似てはいますが、ヴァイオリン族の楽器は、様々な工夫によって、格段に大きくて、音が魅力的で、圧倒的な存在感と個性を持ち、以後の音楽の歴史を書き換えることになるのです。

   少し、長くなりそうなので、この続きは、来週にしましょう。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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