兵庫県・西宮のゴルフ場に、背丈がばらばらの子どもたち47人が集まった。みな少し緊張した様子で、どうやら大半が初対面のようだ。キッズ向けのゴルフ教室だろうかと思いきや、「青少年育成」をテーマにしたプログラムを実施するとのこと。いったい、どんな内容なのか。現地を取材した。「尊敬」「忍耐」など9つの人生観を学ぶ「ゴルフというより教育プログラムです。ゴルフを通して人生の価値観を教えています」――こう話すのは、イベントを主催したアコーディア・ゴルフ(東京・品川)の田代祐子社長だ。プログラムは「ザ・ファースト・ティ」と呼ばれ、1997年にアメリカで開発された。「子どもの人間形成」に主眼を置き、ゴルフを通じて「尊敬」「忍耐」「責任」など9つの人生観(ナイン・コア・バリュー)を学ぶというもので、アメリカでは体育の授業で採用されるほどメジャーな取り組みだ。日本では2011年、同プログラムの普及を目指したNPOが設立。15年にはゴルフ場でのプログラムが開始し、国内でも知名度が高まりつつある。11月23日に「アコーディア・ゴルフ甲子園浜」で行われた「ザ・ファースト・ティ」には、5歳~11歳の計47人が集まった。多くがゴルフ未経験だ。この日は、ナイン・コア・バリューの一つである「礼儀」をコーチから学ぶ。ゴルフクラブはどんな握りでもOK取材は驚きの連続だった。子どもたちはショットやパター、アプローチに挑戦したが、ゴルフの「技術」や「ルール」を教えられることはほとんど無かった。「打ちっぱなし」では、コーチが「正しいクラブの持ち方はこうだけど、今日は好きに打っていいよ。野球のバットみたいに握ってもいいし、普通と反対に持ってもオッケー」と指導。子どもたちは思い思いの握りで、笑顔いっぱいに汗を流した。本来のゴルフレッスンで重点を置く「技術」「ルール」に時間を割かない分、この日のテーマである「礼儀」には熱を入れていた。礼儀を「他人に対して思いやりを持ち丁寧に行動すること」と定義し、これを子どもたちに考えさせる工夫を随所に盛り込む。例えば、子どもたちがショットの順番待ちをしている際、「どこで待っていればお友達の邪魔にならないかな?」とコーチが声をかけ、同じグループの仲間がナイスショットを決めれば、「なんて言葉をかけたら○○くんは嬉しいかな?」と投げかける。子どもたちはそのたびに考え、行動に移した。プログラムは1時間ほどだったが、最初のぎこちなさが嘘だったかのように終盤には子どもたちのコミュニケーションが活発化。「おしい~」「こうすればいいんじゃない?」「ありがとう!」と元気なかけ声が響いた。ゴルファー人口増に貢献「ザ・ファースト・ティ」は、国内では全国16施設で展開されている。その一つである「相武カントリー倶楽部」(東京・八王子)では、16年5月の開始以降、のべ600人以上の子どもたちが参加している。同倶楽部を運営する、先述の田代社長は「幼稚園の年長から中学生まで幅広い年齢の子どもたちが体験しています。ほとんどPRをしていませんが、口コミで参加者がじわじわ増えている」と手ごたえを口にする。さらに、昨今ゴルフ業界を悩ます「ゴルフ離れ」の抑止にも効果的だと期待をにじませる。「ゴルフは敷居が高いと長年言われてきました。ですがこのプログラムは一歩踏み出しやすく、ゴルファー人口を広げることにも貢献すると思います」アコーディア・ゴルフでは今後も全国の運営ゴルフ場、練習場で本プログラムの展開を予定している。
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