2024年 4月 24日 (水)

ゆるめるモ!、UTOPIAでなくYOUTOPIA
押しつぶされそうな「個」を解放する

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   この10年、日本の音楽産業は、アイドルグループに支えられてきたと言って過言ではない。その中核にいたのがAKB48であることは説明不要だろう。2005年結成、2009年に14枚目のシングル「RIVER」で初の一位を記録。以降、去年の50枚目のシングル「11月のアンクレット」まで連続37枚が一位、連続31枚がミリオンセラーという気が遠くなるような実績がそれを証明している。右肩下がりでCDが売れなくなっている中でミリオンセラーを出し続けることがどのくらい奇跡的なことか。握手券目当てで音楽不在というような表面的な批判だけで彼女たちは語れない。

飽きられる、という結末がない

   AKB48がアイドルシーンの革命だったことがいくつもある。

   一つは"会いに行けるアイドル"というコンセプトだろう。それまでのアイドルは"会いに行けない"存在だった。どこにでもいる女の子がある日、テレビの画面の中で輝くような笑顔を見せているというシンデレラストーリーは、スターが手の届かない遠い雲の上の人だからこそ成り立った。

   彼女たちは、それを変えた。根本から変えてしまった。秋葉原のAKB劇場は、雑居ビルの中にある。2010年にアイドル好きなラジオディレクターに誘われて足を踏み入れた時、あまりに狭い空間に気圧されてしまった。

   手を伸ばせば届きそうな至近距離のステージで明日を夢見る女の子たちが必死に汗を流している。目を輝かせて見つめる観客はそれぞれの想いを託して贔屓の子を見つけて一番近しい応援団になる。その猥雑とも言える熱度のエネルギーはすさまじいものがあった。これはとんでもないことが起きそうだという身震いするような予感をはるかに凌ぐ現実がその後に待っていた。

   従来の芸能界のスターシステムとは無縁な発想。その最たるものが"総選挙"と"ジャンケン選抜"だろう。

   誰がメインで歌うか、ヒロインになるか。古今東西、ショービジネスを題材にした映画や小説が取り扱ってきた光と影の人間ドラマをファンの手に委ねてしまった。メインを決める、スターを作るのはファンの投票であり、全て偶然性が支配するジャンケンによるというアイデアが導入されたことで、一切がガラス張りになった。彼女たちの人気が一過性に終わらないのは、"飽きられる"という結末がないせいでもあるだろう。つまり、ファンは、彼女たちをどうにでも作り変えられる立場にあるからだ。"お客様は神様です"というかつての三波春夫の名文句の意味を誰よりも実感しているのがAKB48のメンバーではないだろうか。

業界とはなんのつながりもない素人

   ただ、去年は、そうしたAKB48の独壇場となっていたアイドルシーンの転機となる年となった。その象徴的な場面が年末の第59回日本レコード大賞だろう。周知のように大賞を受賞したのは初ノミネートの乃木坂46「インフルエンサー」だった。2011年、"AKB48の公式ライバル"として発足して6年。本家を押しのけての受賞だった。

   それだけではない。大賞を争ったのはAKB48と2015年に結成された欅坂46。"笑わないアイドル"として注目を集めてきた妹分。作詞家・秋元康プロデュースの集団制アイドル三組が初めて同じ土俵に上がって凌ぎを削ったという意味でも特筆される年となった。

   その一方でSKE48、NMB48、HKT48ら姉妹グループの人気も衰えをみせない。一人のプロデューサーの影響力がこれだけ強大になったのも日本の音楽史上初めてのことだろう。更に、去年はモーニング娘。の結成20周年の年でもあった。レコード大賞の最優秀新人賞を受賞したつばきファクトリーは、モーニング娘。のデビューとともにスタートしたハロープロジェクトの研修生で組んだグループだった。20年の積み重ねは脈々と生き続けている。

   というような話は、今更、ということになるのかもしれない。アイドルシーンの奥深さや裾野の広さは、そうやって括れない形で新しいヒロインを生み出している。例えば、アイドルグループとヘビーメタルを組み合わせ、海外ツアーにまで発展していったBABY METALの成功はその最たるものだろうし、秋葉原のライブステージやメイド喫茶の従業員たちが結成、すでに複数回の武道館公演を成功させている、でんぱ組.inc。歌唱力に特化して紅白にも出場したリトル・グリー・モンスターもいる。

   少し前は"地下アイドル"と揶揄されていたアイドルたちからも前述のメジャー・アイドルとは違う個性的な存在がいくつも登場している。1月6日、ZEPP TOKYOで見た4人組アイドルグループ、ゆるめるモ!は、まさにその申し子のようなグループに見えた。

   "無手勝流""脱力支援""ニューウエーブ"。ゆるめるモ!には、そんないくつかのキャッチフレーズがついている。

   彼女たちの結成は2012年。バックパッカーとして放浪経験を持つフリーライターが、ももいろクローバーZに触発され、路上スカウトでメンバーを集め、学生時代のバンド仲間で曲を書くところから始まったという異色の成り立ちを持っている。つまり全員が業界とは何のつながりもない素人。去年の11月には3枚目のフルアルバム「YOUTOPIA」を発売、二度目の台湾公演、初の韓国公演も成功させた今もインディーズ、既成の芸能事務所には所属していない。音楽好きが集まって手探りで活動しているというまさに"無手勝流"。グループ名には"窮屈な世の中をゆるめる"という意味もある。元ひきこもりもいるというメンバー4人のメッセージが"脱力支援"。ロックやテクノ、ノイズミュージックやアンビエントミュージック、それでいてJ-POP。洋楽ロックのマニアックな要素をミックスした音楽性は確かに"ニューウエーブ"だった。

   ZEPP TOKYOは彼女たちの5周年ツアーのファイナル。音楽を通じてユートピアを目指すという新作アルバム「YOUTOPIA」は、15曲入り70分超の力作。ライブは2時間半をゆうに超えた。決して美女でもグラドルでもなく、むしろ普通にすらなれなかった女の子たちの嬉々とした全力投球の歌と激しい踊りやシャウト。そこにはなぜこれをやっているかという自分たちの言葉と意思が備わっている。

   メジャーとサブカルの違いは"個"にあるのだと思う。"全体"よりも"個"。彼女たちは今の世の中で押しつぶされそうな"個"を音楽を通じてアイドルという形で解放しているようにも見えた。「UTOPIA」ではなく「YOUTOPIA」。ユートピアは"君と過ごすライブ会場"。客席に女子の姿も多かったのはそんな姿勢が伝わっている結果だろう。

   群雄割拠。今年、アイドルシーンは、どんな風に変わってゆくのだろうか。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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