2018年 8月 15日 (水)

浜田省吾、映画「旅するソングライター」
コンサートよりコンサートらしい

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   久しぶりに映画館に足を運んでみて、その環境の良さに驚いたという年輩の方もいらっしゃるかもしれない。

   清潔な館内の座り心地の良い座席。どんな大画面のテレビでも敵わないスクリーンと5.1chサラウンドが普及した大音量の迫力。ここ数年、ライブ・ビューイングと呼ばれるライブの同時中継をはじめ、劇場公開を目的とした音楽映像が数多く作られるようになったのも当然の成り行きと言えそうだ。

   映画館で音楽を楽しむーー。

二か所のライブを一本化

   2月2日から公開される浜田省吾の初の映画館上映作品「旅するソングライター」は、そんな流れの中でも特筆される作品になっている。

   2015年に発売され、二週間一位を記録、最年長記録となった10年ぶりのオリジナルアルバム「Journey of a Songwriter~旅するソングライター」を携えた二つのツアー、2015年のホールツアー「ON THE ROAD 2015」と2016年のアリーナツアー「ON THE ROAD 2016」を収めた「旅するソングライター」には、こんなキャッチコピーがついている。

   "コンセプチュアル・ライブ映像"――。

   今や当たり前のようになったライブ映像作品には二つのスタイルがある。

   一つは、ライブの再現を目的としたものだ。ライブ会場での臨場感をどこまで忠実に再現できるか。客席にいるのと同じような空間をどう体感させるか。キャッチコピー風に言えば「あの感動をもう一度」という形である。ライブを見た人も見ていない人にも、それがどういうライブだったか伝えることを目的としたものだ。

   もう一つは、それとは違うドキュメンタリー的な作り方がある。ステージでは見えないオフショットや楽屋などの様子を織り込みつつ、その人の素顔や人間性を感じさせようとするものだ。ステージでのイメージとの落差は対象がビッグネームであればあるほど貴重なものになってくる。

   浜田省吾の「旅するソングライター」は、そのどちらでもない。それぞれが3時間を優に超える二つのツアーの大阪フェスティバルホールとさいたまスーパーアリーナを一本化した1時間56分は全編がライブである。そういう意味では100%ライブ作品と言って良い。全てがライブで成り立っている。

   それでいて映像はライブだけではない。収録された二つのツアーは、アルバム「Juorney of a Songwriter~旅するソングライター」の中の曲の世界を増幅する映像がふんだんに使われていた。ライブでは浜田省吾やメンバーが演奏する背後に流れていたそれらの映像がより効果的に使われている。

   アルバムのテーマに「旅」に沿った映像。レコーディングやツアーの時以外はほとんど海外を旅しているという浜田省吾の旅行中の姿、彼が登場していない風景カット、そして戦後70年に発売されたアルバムの中核でもあった戦火と地球を伝えるニュース映像。新たに加えられ、演奏よりも映像が前面に出ている曲もある。CDに始まりライブで更に立体的になったアルバムの世界が映像として表現されている。単にライブを記録したというだけではない。コンセプチュアル・ライブ映像というのは、そういう意味だ。

子供時代からの仲間が年月を経て結集・制作

   浜田省吾は、今、最もチケットが手に入らないアーティストの一人である。ようやく手に入れたチケットを握りしめて客席で目を凝らしていた人には、浜田省吾以外は記憶に残っていないという人もいるのだろう。この映像で初めて気づくことも多いのではないだろうか。

   コンサートよりもコンサートらしいーー。

   試写会での感想がこれだった。

   そうした映像がふんだんに使われていながら、主体はライブだ。浜田省吾本人はもとより演奏するミュージシャンの表情や仕草、客席からは見えないディテールが音楽に乗って切り替わってゆく。監督の板屋宏幸はライブやミュージック映像など、30年間近く浜田省吾を撮り続けている。この映画のために一年間かけたという編集は丁寧で細やかだ。流れ落ちる汗や激しいアクションなどをことさらに強調する演出的な意図も感じさせない。曲のフレーズの聞かせどころやミュージシャンの見せどころ、バックの超一流ミュージシャンがいかに音楽を楽しんでいるかを次々とさりげなく見せてゆく。曲の構成やステージの展開、ミュージシャンの人柄も知り抜いているからこその音楽との一体感がひたすら気持ちいい。全てはステージとともにある。それは「浜田省吾のライブ」以外の何物でもなかった。ライブの全体像というよりライブの本質を伝えるという意味でも稀有な作品ではないだろうか。

   筆者が見た試写会は、ドルビーアトモスという新システムでの会場だった。天井にもスピーカーが仕込まれているという立体的な音響は、会場全体を音の中に包み込むようだった。少なくとも映画館は音の環境が物足りないという従来のイメージが一変することは間違いなさそうだ。

   浜田省吾はテレビに出ない。動く姿を見ることが出来るのはコンサート会場だけだ。そこには彼だけでなく音響や照明などのスタッフの人生も集約されている。彼のツアースタッフには人生の大半を彼と過ごしているというキャリアの持ち主も少なくない。

   浜田省吾は、この作品についてこうコメントを出している。

「板屋監督をはじめとする制作スタッフのひとりひとりは、皆、この世界における子供時代からの仲間です。ある時は衝突し、ある時は称え合い、励まし合い、それぞれの世界で成長してきた同志です。才能と情熱を持った少年達が技術を磨き、経験を積み、年月を経て結集し、制作したライブ作品が完成しました」

   その後にコンサート会場、劇場に足を運ばれた人たちへの感謝の気持ちを述べている。

   2016年のアリーナツアー「ON THE ROAD 2016」は、デビュー40周年という背景もあった。音楽は聴き手の存在あってこそだ。CDの曲がライブで演奏され、それが映像になる。それぞれにしか表現的できないこと。アルバム「Journey of a Songwriter」の三部作的完結編がこれだろう。映画館の客席がどういう反応をするのかを確かめてみたいと思った。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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