2024年 4月 25日 (木)

定年後こそ次のステージへ 知恵と経験を生かす働き方

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   ■フリー・エージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか(ダニエル・ピンク、ダイヤモンド社)

   働き方改革により、職場での働き方が変わる。では、職場以外の働き方はどうなるのか――。

   アメリカでは、20年前からフリー・エージェントの台頭が注目されていた。その数は3300万人、労働総人口の25%にのぼる。フリー・エージェントという言葉を著者は定義していない。彼らは、大組織に縛られることなくプロとして自立する個人であり、年齢も20歳代から70歳代まで幅広い。

   本書は、フリー・エージェントがどのような人生観、職業観を持つかを明かし、医療保険、雇用、職住分離などの制度改革を提言し、これからは智恵と経験を生かす、定年退職後のフリー・エージェントが多数現れると予測する。

   著者は、日本でいえば元キャリア官僚のダニエル・ピンク氏。クリントン政権でライシュ労働大臣の補佐官、ゴア副大統領の首席スピーチライターを務め、自らフリー・エージェントに転身した人物である。

失業リスクも少ない

   家庭と仕事の間に境界線を明確にもうけるかどうか。ラドクリフ大学の調査では、20~30歳代の男性の20%は、給料のいい仕事ややりがいのある仕事よりも家族と一緒に過ごす時間をとれる仕事を好ましいと考えている。いわばワーク・ライフ・「ブレンド」。家庭に仕事を持ち込むのである。

   フリー・エージェントが増加した背景には、職業観、職業倫理にも新しいうねりがあるという。先々の報酬のために若いうちは下積みの努力をするのではなく、いま満足感が得られる仕事を選び、質の高い仕事をして社会に対して責任を果たす。こう考えるとピラミッド型の組織と長期間の雇用契約をするよりもプロジェクト単位で仕事を選ぶことが好ましいとの結論になる。

   若い世代に職業観の変化を引き起こしたのは、大企業のリストラであると筆者は説く。1998~99年にアメリカの大企業が解雇した従業員数は130万人と10年前の6倍近い。しかも失業率は過去30年で最低だというのに。

   大企業にしがみつくリスクがかつてなく高まり、離職していくつかの顧客を常に相手にするフリー・エージェントの方が収入も増え失業のリスクも小さいという新しい常識が生まれ、自分を磨き仕事を分散することが合理的だと考えられ始めたのである。

   成長期の大企業は職の保障とひきかえに組織・上司への忠誠心を求めていた。タテの忠誠心である。この忠誠心に関しても、一つの組織で長期間働くことが能力や適応力の向上をはばむと考える人々が増えた。その結果、顧客や仕事仲間など手元の名刺にある人々との信頼関係、つまり「ヨコの忠誠心」が重視され始めた。

   本書では、フリー・エージェントに会社を辞めて転身した人々の、「どんな仕事をするときも、お金をもらって勉強させてもらっていると考える」とか、「会社と社員、上司と部下の関係が顧客や同僚の関係に代わる。誰かの下で働くことはなくなった。」といったコメントが紹介されている。

企業の「大型客船」から個人ジェットの時代へ

   インターネットの普及により企業内部の業務を中小企業やフリー・エージェントに仕事を頼むことが当たり前になっている。イノベーションにおいてもオープン・イノベーションが当たり前になってきた。投資家の投資先も会社の株式よりもプロジェクト志向になっている。組織の管理職の仕事も部下の管理から映画のプロデューサやスポーツチームの監督のようなプロジェクト・マネジャーに転換していく。

   いま、AIを活用したビジネス、iPS細胞に代表されるバイオ技術をはじめ幅広い分野で新たな技術を生かしたビジネスが活発に生まれている。

   知識や技術を駆使する立場の人間とそれを支える人間。さらにはそうした流れと関係の希薄な地域や人々。先進国、新興国を問わず智恵の有無が経済力の格差を生む。大企業と関連企業という大型の客船の時代から個人ジェット機の時代だ。

   経済学は社会科学であって自然科学ではない。価値判断を伴う。マルクス主義にもとづく社会主義経済が破綻してから、経済学において価値判断を伴う研究や議論が低調になっているが、アダム・スミス以来、経済学の歴史には哲学的思想が長年伴走していた。

   イスラエルの歴史家ユヴァル・ハラリ博士は、日本でもベストセラーになっているサピエンス全史についで、2016年にホモデウスを著し、これから百年の世界を展望している。本書が20年前にアメリカ社会に働き方の警鐘を鳴らし、ホモデウスが未来社会の人類の価値規範を提示したように、日本でも、社会の価値規範への論考、提言が活発になされることを期待したい。

経済官庁 ドラえもんの妻

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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