2018年 7月 23日 (月)

中島みゆきリスペクトライブ「歌縁」
歌は解き放たれ、縁が生まれる

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   こんなにガチンコなカバー曲のライブがあっただろうかーー。

   2015年11月、大阪のフェスティバルホールと東京の中野サンプラザで行われた「中島みゆきリスペクトライブ「歌縁」」を見た時にそう思った。

   タイトルにあるように様々なアーティストが中島みゆきの曲だけを歌うというライブである。多くは「トリビュートライブ」として行われる類のものだ。でも、今も活動中のアーティストに対して「トリビュート」というのはいかがなものだろうか、と「リスペクト」というタイトルになった。歌うのはすべて女性である。すでに発売されているライブアルバムに収録されているだけでも満島ひかり、中村中、矢野まき、安藤裕子、華原朋美、中島美嘉、平原綾香、クミコ、坂本冬美、研ナオコ、大竹しのぶ、というそうそうたる顔ぶれが参加した。

「歌縁」は2016年にCDにもなった(アマゾンHPより)
「歌縁」は2016年にCDにもなった(アマゾンHPより)

はじまりは満島ひかりの「ファイト!」

   ガチンコ、というのはマジ、という意味だ。

   かといって他のトリビュートライブがそうではないという意味ではない。熱唱するとか、愛着を込めるとか、敬意を表すというような言葉では表現できない緊張感があるライブだったのだ。

   誰がどの曲を歌うかは希望制で重複した場合は話し合うという中で決められたというそれぞれの曲は、どれも中島みゆきの一つの時代や歌のスタイルを代表する名曲ばかり。世間的な意味でのヒット曲ではなく、その歌い手が思い入れや必然性のある歌を歌う。なぜその曲を歌うのかという理由がある分、一般的な名曲カバーと違ってくるのも当然だろう。その歌と本気で向き合っている。その歌と出会った頃の自分と対話している。その頃の自分と戦っている。それが客席に伝わってくるライブだった。

   何しろ、アルバムの一曲目が満島ひかりの「ファイト!」で始まっているのだ。

   小学生の時に、三浦大知らも一緒だったダンス&コーラスグループ、Folderでデビュー、解散後に役者として開花した彼女が歌うとも語るともつかない感情を抑えた「ファイト!」は、まるで自分に言い聞かせているような説得力があった。「夜会」で共演している中村中の「化粧」や中島美嘉の「命の別名」は、歌っているより泣いているようでもある。クミコの「世情」は、70年代の大学のキャンパスを知っている世代の鎮魂歌のようだ。その曲を歌う、というより、その曲の本質に迫ろうとする、その歌を借りて自分の「内なる姿」をさらけ出そうとしている。コンサート中、何度も鳥肌が立つほどだった。

   それは全員が女性だったということもあるのかもしれない。歌に対してのガチンコぶりだけではない。それぞれの参加者がお互いの歌で勝負している。オムニバスライブにありがちな「お祭り感」がない。これだけキャリアのある歌い手が、中島みゆきの歌を通して自分のアイデンティティを証明しようとしている。こんなに笑顔の少ないリスペクトライブも珍しかったのではないだろうか。

「プロの方々が真剣に歌って下さって光栄」

   このライブに対して中島みゆきは筆者のインタビューで「プロの方々が真剣に歌って下さって光栄な気持ちで一杯」という話をしていた。最新アルバム「相聞」の「アリア~Air~」の中でも「一人では歌は歌えない 受けとめられて産まれる」と歌っている。彼女が89年に「夜会」をスタートした時にも「歌を解放する」という言い方をしていた。自分の歌でありながら、それぞれの聴き手のものになってる歌をその人たちのイメージや先入観から解き放ってその歌自身の世界を広げてゆく。「歌縁」に、作り手だった「中島みゆき」の姿はない。ステージに登場しないというだけではなく「中島みゆきの歌」という限定がない。彼女が産み落とした歌を、これだけの歌い手が「自分の歌」として歌っている。それは、中島みゆき自身が望んでいたことでもあるのだろうと思った。

   大竹しのぶの「歌姫」のしみじみとした達観にも似た温度感は誰にも表現できないだろう。

   2015年の「歌縁」は即日完売、2016年にライブアルバムになった。そして去年、2017年は東京と大阪だけではなく全国にツアーとして回った。今年は2月から再び全国9か所のツアーとして行われている。何と3月3日には武道館で予定されている。本人が登場しないカバーだけのライブでの全国ツアーはもとより武道館公演というのも異例だろう。今年の参加者はクミコ、研ナオコ、島津亜矢、高畑淳子、中村中、新妻聖子、半崎美子、平原綾香という顔ぶれだ。

   歌は解き放たれてゆく。

   それぞれの歌として新しい命を吹き込まれてゆく。

   歌い手にも聴き手にもそこに「縁」が生まれてゆく。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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