2018年 9月 24日 (月)

在宅夫のトリセツ 小川有里さんが決めた「晩ご飯作らんデー」

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   サンデー毎日(3月11日号)の「加齢なる日々」で、エッセイストの小川有里さんが、働くのをやめた夫と二人きりの生活をつづっている。今年で72歳になる小川さん。伴侶のほうは休日だけだがアルバイトをしていたそうで、その契約期間が4か月前に終わった。いよいよ「オジサン(夫)が完全に家にいる」暮らしが始まった、というわけだ。

「多分、こうなるだろうなと予想した通りの日々が続いている。的中率100%だあ、なんて全然喜べない」

   冬場には、日当たりのいい自室のこたつにもぐり込む夫。「巣穴」から出てくるのは食事とトイレくらい。〈毎日退屈で困るでしょ〉という妻の皮肉も意に介さない。〈新聞2紙を読むのに半日かかるし、サンデー毎日も本(小説)も読まんといかんから〉と。

   小川さんも締め切り間近は在宅だ。さて、高齢夫婦がずっと家にいるとどうなるか。

(1)光熱費がかさむ。1月の電気料金は夏場より6000円高で、灯油代が加わる。
(2)トイレが混む。お互いコーヒーや紅茶をよく飲むので。
(3)家の中が片付かない。

  • 「四六時中仲良く」は、なかなか難しい
    「四六時中仲良く」は、なかなか難しい

「あれからどう?」

   そう嘆く小川さんは、夫の巣ごもりを受けて、毎週水曜を「晩ご飯作らんデー」と決めた。 「決まりはきちんと守ることで定着していく」。それぞれ作り置きや余り物を冷凍庫から引っ張り出し、夕食前は電子レンジの順番待ちになるそうだ。

   友人たちは〈あれからどう?〉と、生活の変化を聞いてくる。夫との距離感は共通の悩みらしい。ありのままを話すと、〈いいね、私も晩ご飯作りが悩みなので、あなたをまねしようかと考えています〉とメールで返してきた友もいる。

   小川さんなりの、夫の取扱説明書が広まる気配である。

   別の友人が〈それくらい自分でやって〉と突き放したところ、ダンナに〈それもオガワさんの影響か〉と言われたそうだ。名が売れるのも善し悪しで、これでは彼女の著作名「強いおばさん 弱いおじさん」(毎日新聞出版)そのものだ。

「うむ。定年後夫たちの間で、私の評判はますます悪くなりそうだなあ」

内外に一つは趣味を

   この話、私にとっても切実である。いちおう物書きなので在宅時間が長い。退職し、さあ遊ぼうと思った時、たいていのオジサンは本職が趣味に近かったことに気づく。

   人生うまくいかないもので、若いころにはカネがなく、働き盛りは時間がない。時間が自由になるリタイア後は、体力の残量に黄信号がともる。

「老後をエンジョイするには、野外と室内の趣味をそれぞれ一つは持つべし」

   そう説いたのは、多趣味で知られた大橋巨泉(1934-2016)である。

   巨泉のようにゴルフとジャズ、釣りと麻雀でもいいし、山歩きに手芸、ドライブと料理、競馬とパチンコ...なんでもいい(飲み歩きとゴロ寝の取り合わせは非推奨)。

   私が思うに、いくつか前提がある。なにごとも老後に楽しみたいなら、若いころから細々とでも嗜んでおくのがよい。もう一つ、夫婦そろっての趣味は理想とされるが、どうだろう。家庭外への広がりに欠けるし、見慣れた、あるいは見飽きた顔が見え隠れしては、お互いときめかないではないか。

   カネと体力がそれほど要らず、家の内外でだらだらと楽しめて、新たな出会いも期待できる。そんな趣味を求めれば、私のようにSNSの迷宮にたどりつく。

   別室でスマホやパソコンをいじり、食事どきはレンチンの順番待ち。これで老夫婦は、たぶん数か月は円満である。

冨永   格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。
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