2018年 11月 21日 (水)

「新楽器」クラリネット取り入れたウェーバー ロマン派の時代開いた作曲家の名曲

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   今日は、現在ではオーケストラの一員として当たり前の楽器であり、吹奏楽においては、管弦楽のヴァイオリンの位置にあって旋律を奏でる重要な楽器「クラリネット」と、その協奏曲、ウェーバーのクラリネット協奏曲をとりあげましょう。

  • 鋭いまなざしのウェーバー
    鋭いまなざしのウェーバー

突然18世紀初頭に登場した木管楽器

   オーケストラの中の木管楽器というと、現在は金属製ですが、昔は木で作られていたフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、が主要な4つです。フルートの音域が高いピッコロや、オーボエと似ているが音の低いコーラングレなども曲によっては登場しますが、基本の木管楽器はこの4種類で統一されているといってもいいでしょう。しかし、この4つの中で、クラリネットだけは「新参者」なのです。

   形と材質は変わっても、フルートは連綿とバロック時代から使われていましたし、オーボエは、17世紀ごろ誕生し、初めて弦楽だけの楽団に加わった管楽器だといわれています。低音を受け持つファゴットも16世紀後半には登場が確認されています。いずれも、現代の楽器とはかなり異なるものではありますが、「同じ楽器の昔の形」がありました。

   ところが、クラリネットだけは、突然、18世紀の初頭に登場したのです。フランスに原型となる「シャリュモー」という楽器が存在したといわれていますが、現在でもシャリュモーについてはあいまいな点が多く、それはあまりメジャーな楽器ではなかったということ。現代では世界で広く作られクラシックではもちろんのこと、ジャズなどでも幅広く使われるクラリネットの存在感とはかけ離れたものと言わざるを得ません。

   ともかく、バロック時代には、クラリネットは全く存在せず、古典派の時代でも、モーツァルトは、まだまだこの新参楽器の音程の悪さを指摘し、一部の交響曲にしか登場させていません。クラリネットの本格的活躍は、「ロマン派以降」ということになるわけです。

古典派の形式ながらロマンティックな曲

   時代の転換点というのは厳密に定義するのは難しく、作品の観点からから言うと、1770年生まれのベートーヴェンは古典派最後の巨匠、1797年生まれのシューベルトはもうロマン派の時代の入り口の作曲家と分類されていますが、今日の主人公、1786年生まれのウェーバーは、どう分類すべきでしょうか?父方の従妹がモーツァルトの妻、コンスタンツェだった、ということも考えると、年代だけで分類すると「古典派最後の作曲家」とも言えなくもないのですが、彼は、完全に「ロマン派」の作曲家なのです。

   それは、ロマン派の時代に音楽に大きな影響を与えた文学――それは幻想、怪奇、さすらいの旅、神話、ドイツの森の風景――といった要素を持ち、後の我々が「ロマンティック」と呼ぶ雰囲気をたたえた作品がたくさん作られ、消費されました。音楽も、古典派の時代とは明らかに異なり、ロマンティックなメロディーを持ち、ハーモニーはより自由になり、ソナタなどの「形式」がだんだん崩れてくることになったのです。

   ウェーバーはロマン派の中ではもっとも初期の世代なので、作る曲は古典派の形式にのっとったものが多いのですが、内容は、ロマン派時代を先取りするような、「ロマンティック」なものがほとんどでした。ベートーヴェンは、古典的な厳格な内容を、交響曲に合唱をつけてしまうなど、革新的な形式で表現しようとしましたが、ウェーバーはその逆で、革新的な怪奇・幻想といった内容を、古典派と共通するクラシカルな形式で表現しようとした、といってよいのだと思います。まさに「過渡期」の作曲家です。

   ちなみに、ウェーバー自身は、ベートーヴェンのことを、「音楽的怪物」と否定的にとらえていました。

ミュンヘンで活躍していた名演奏家と出会う

   そんなウェーバーは、当時まだまだ発達中だった新しい楽器クラリネットのために曲を書く気になったのは、ミュンヘンで活躍していたハインリヒ・ヨーゼフ・ベールマンという名演奏家と出会ったことがきっかけでした。1810年代のこのころ、ウェーバーはドイツ各地を転々として演奏会を指揮したりしていましたが、様々な出会いをもたらしてくれたのです。まず初めに「クラリネット小協奏曲」を2週間という驚異的な速さで書き上げ、宮廷演奏会で披露したところ、バイエルン国王マクシミリアン1世が感激し、すぐにウェーバーに本格的なクラリネット協奏曲を2曲、直々に作曲依頼をしたのです。

   その依頼に見事にこたえて作曲したのが、「クラリネット協奏曲 第1番 ヘ短調 Op.73」と「第2番 ホ長調 Op.74」です。これらも、大変な速さで書き上げられ、ベールマンの独奏クラリネット、ウェーバーの指揮で、次々と初演されました。

   新しい楽器と、新しい時代を切り開いた演奏家と作曲家によって世に生まれたこれらの協奏曲は、今日でもクラリネット協奏曲の重要なレパートリーとして、演奏されています。楽器においても、音楽においても「過渡期」といえる時代でしたが、だからこそ生まれるこのような名曲が存在することも、また興味深い歴史の1ページです。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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