2024年 4月 19日 (金)

映画「沖縄スパイ戦史」、メディアで高い評価 73年たっても「癒えない傷」がある・・・

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   女性監督二人が作った一本のドキュメンタリー映画が、メディアを席巻している。「沖縄スパイ戦史」(製作:DOCUMENTARY JAPAN、東風、三上智恵、大矢英代。114分)。

   子どもまで戦士に仕立て上げるなど、余り知られていない沖縄戦の深層に追ったものだ。朝日、毎日、読売、日経、東京新聞やTBSラジオでも紹介された。2018年7月28日から東京・東中野のポレポレ東中野で公開されている。台風接近にもかかわらず、初回は満席でパイプ椅子まで出る盛況だった。

  • 舞台あいさつにて、監督の三上智恵さん(左)と大矢英代さん
    舞台あいさつにて、監督の三上智恵さん(左)と大矢英代さん
  • 舞台あいさつにて、監督の三上智恵さん(左)と大矢英代さん

沖縄に土地勘がある二人が組む

「山中にこもった少年ゲリラ部隊、波照間島民の強制移住、北部の日本兵による住民虐殺。陸軍中野学校出身者らが沖縄で展開し、多くの住民も口を閉ざす秘密戦に迫る」(日経新聞)
「軍によってもたらされた悲劇を語る住民たちの怒りを、カメラは正面から受けとめる。軍は住民同士を監視させ、スパイの嫌疑がかけられた人物の殺害には住民も関わったという。沖縄戦から70年以上たっても、その傷口は生々しい」(読売新聞)
「少年を洗脳して戦場に送り出すのは、イスラム過激派と同じ・・・戦争体験を振り返る映画でも沖縄の痛みを訴える映画でもない。有事になれば同じことが今でも日本中で起こり得る。その現実を浮き彫りにした映画だ」(毎日新聞)
「私たちは自(おの)ずと明快な教訓を得る。すなわち、軍は国民を守らず、利用するだけだ。自衛隊は? 同じだと元自衛官が証言する」(朝日新聞)

   監督したのは、三上智恵さんと大矢英代(はなよ)さん。三上さんは1964年生まれ。毎日放送、琉球朝日放送を経て独立。アナウンサー、ディレクターとして多数の硬派作品に関わり、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞、テレメンタリー年間最優秀賞、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞などを受賞している。映画作品は「標的の村」(2013年公開、山形国際ドキュメンタリー映画祭市民賞および日本映画監督協会賞、キネマ旬報文化映画ベストテン1位)など4作目。大矢さんは1987年生まれ。琉球朝日放送記者を経て独立。学生時代から八重山諸島の戦争被害を取材し、本作が初の映画作品。米国での取材も担当している。

   三上さんはアナウンサー出身だけに声が朗々としている。大矢さんはまだ若い。初日の舞台挨拶に登場した二人の華やかさと、映画の深刻さ、重々しさとは大きなギャップがある。逆にそれが、お年寄りに胸の内にしまいこんでいた思いを語ってもらうということではプラスに作用したのかもしれない。

戦争は地元民も分断する

   戦争末期、中野学校出身者は沖縄に爪痕を残した。40人ほどが本島や離島に派遣され、子供をゲリラ兵士に仕立てた「護郷隊」を作るなどかなり強引なことをやったのだ。その実態の一端は2015年、NHKスペシャルが「あの日、僕らは戦場で~少年兵の告白~」という「護郷隊」を主人公とした番組を放映したことで知られるようになる。NHKスペシャル取材班は16年に『僕は少年ゲリラ兵だった――陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊』(新潮社)という単行本を出しており、その取材に協力した名護市の市史編さん係嘱託職員の川満彰さんも18年になって『陸軍中野学校と沖縄戦』(吉川弘文館)を出版している。J-CASTのBOOKウォッチでは両書とも紹介済みだ。

   映画はそれらと重なる部分もあるが、大画面の迫力は強烈だ。しかも、両書以上に踏み込んだところも多い。一つは八重山諸島におけるマラリア被害。とりわけ波照間島では、中野学校出身者による命令で、住民が西表島のマラリア多発地域に移住させられ、そこで当時の島民の3分の1近い約500人が亡くなった。映画の中では、この強制移住を命じた中野学校出身者に戦後、沖縄戦の研究者が電話取材した録音テープが紹介されている。まったく罪の意識がない話しぶりに唖然とする。

   もうひとつは「国士隊」についての部分だ。土地の有力者たちを巻き込んだ住民監視組織だ。「スパイ」の疑いがある住民を密告し、軍による処刑に協力する形となった。小さな村では、誰の密告で誰が殺されたか分かっている。しかし村民は今も当事者の実名について口をつぐむ。

   沖縄戦では、民間人も戦争に動員され、壮絶な地上戦で多くの犠牲者を出した。混乱の中で日本軍に殺された住民もいた、ということも知られている。しかし、そこに住民自身も関与していたという事実は重い。戦争は地元民も分断する。そして傷を残す。おそらくは中国や朝鮮半島でも似たようなことが起きていたのだろうと、想像してしまう。

   ノンフィクション作家の豊田正義さんは、近刊の『ベニヤ舟の特攻兵』(角川新書)の中で「強大な国家権力は、その気になれば国民を洗脳し、いつのまにか、とんでもなく悲惨な任務を与える。そして、まるで虫けらのごとくその命を国家のために消耗させる」と強調しているが、全くその通りだと思った。国家権力に翻弄された国民の傷は「73年たっても癒えない」(三上さん)ということがこの映画からひしひしと伝わる。

   作品の全国上映のスケジュールはHPで確認できる。

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