2018年 10月 23日 (火)

福耳、20周年
「星のかけらを探しに行こう」は続く

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   いきなりではあるのだが、杏子、山崎まさよし、スガシカオ、COIL、元ちとせ、スキマスイッチ、秦基博、さかいゆう、竹原ピストル、という人たちに共通することを挙げよと聞かれてすぐに答えられる方はかなりの音楽通ということになるかもしれない。答えはオフィスオーガスタ、彼らの所属事務所だ。

   もちろん、ジャニーズ事務所を筆頭にアーティストのマネージメントだけでなく音楽制作にまで一貫した体制を敷いている例はある。でも、複数の個性的なシンガーソングライターを擁するという意味では、オフィスオーガスタの右に出るところはないだろう。

  • 「ALL TIME BEST~福耳20th Anniversary」(ユニバーサルミュージック、アマゾンHPより)
    「ALL TIME BEST~福耳20th Anniversary」(ユニバーサルミュージック、アマゾンHPより)
  • 「シンガーとソングライター~COIL 20th Anniversary」(ユニバーサルミュージック、アマゾンHPより)
    「シンガーとソングライター~COIL 20th Anniversary」(ユニバーサルミュージック、アマゾンHPより)

功を焦らず、その場の答えを求めない

   2018年8月22日に結成20周年で二種類の記念アルバム「ALL TIME BEST~福耳20th Anniversary」「シンガーとソングライター~COIL 20th Anniversary」を発売した福耳は、それぞれが違うレコード会社でCDを発売しているオフィスオーガスタの所属アーティストが集まったという稀有なプロジェクトだ。

   オフィスオーガスタは92年11月、バービーボーイズを解散した杏子のソロ活動の受け皿として発足した。設立したのは現在の最高顧問、森川欣信。当時はキティ・ミュージックのディレクターだった。

   70年代に不遇を極めていたRCサクセションをロックバンドとして再生させ、忌野清志郎を誰よりも理解していた業界人としても知られている。自他ともに認めるビートルズ・マニアでポール・マッカートニーの2013年以降の来日公演を全て最前列で観賞、ポールから「また来てるね」と認知されたというエピソードもある。加藤和彦や松任谷由実の研究者としても馳せている。

   発足時は渋谷区の雑居ビルの一角。自前アーティストの第一号となった山崎まさよしが「こんなに貧乏な事務所で大丈夫なのだろうかと思った」と話していたことがある。

   オフィスオーガスタはアーティストの育成に時間をかけることでも知られている。

   功を焦らない、その場の答えを求めない。その人の特性を生かした楽曲づくりを優先する。山崎まさよしも上京から3年、今は独立しているスガシカオもデビューは29歳、スキマスイッチもメジャーデビューまで2年かかっている。竹原ピストルは10年間在籍して解散したバンド、野狐禅のメンバーが復帰するという形だった。福耳の一員であるCOILに至ってはヒットやライブという表立った活動はないままに20年を迎えている。

「シンガー」と「ソングライター」

   福耳という名前は、そもそも98年に札幌にZEPP SAPPOROが出来た時のこけら落としライブの名称。そこで杏子・山崎まさよし・スガシカオの3人が杏子の95年のシングル「星のかけらを探しに行こう」を歌ったことから始まっている。

   イベント名がユニットの名前になり「星のかけらを探しに行こうagain」としてCDデビュー、それ以降、事務所に新たに加わったアーティストが随時参加するプロジェクトとして続いてきた。きっかけとなったZEPP SAPPOROのライブの日から20年後の今年の4月12日に発売になった配信限定シングル「イッツ・オールライト・ママ」には今の所属アーティスト13組が参加している。

   8月22日に出た「ALL TIME BEST~福耳20th Anniversary」は、最初のシングル「星のかけらを探しに行こうagain」からの全シングルと新曲「八月の夢」が収録されている。「八月の夢」は作詞作曲がCOILの岡本定義、編曲がスキマスイッチ、歌っているのは杏子、元ちとせ、山崎まさよし、大橋卓弥、秦基博。「雨上がりの空に星のかけらを探してたこと決して忘れない」という歌詞は、RCサクセションの「雨上がりの夜空に」と福耳の「星のかけらを探しに行こう」へのオマージュを思わせた。

   ただ、アルバムが「ALL TIME BEST~福耳20th Anniversary」一枚だったら、こんな風に紹介するまでにはなっていなかったとも思う。同じ所属事務所のアーティストが参加したということに留まらないクリエイティブなプロジェクトだと思わせてくれたのが同じ日に出たもう一枚のアルバム「シンガーとソングライター~COIL 20th Anniversary」だった。結成20周年で初めて発売される福耳のオリジナルアルバムになる。

   「シンガーソングライター」ではない。「シンガー」と「ソングライター」である。

   「シンガー」として参加しているのは前述のアーティストを中心にした総勢10組。「ソングライター」として、やはりデビュー20周年を迎えるCOILの岡本定義が全曲の詞曲を書いている。

本人が気づいていない魅力をデフォルメ

   何度か触れているように参加しているアーティストは元ちとせ以外は、全員が詞も曲も書く。つまり、シンガーソングライターでもある。自分で詞も曲も書く人たちに詞曲を提供する。彼らが自分では書けない、あるいは書かないだろう曲を歌うという意外性という意味でも興味深いアルバムだった。

   例えば、山崎まさよしが歌っている「エーゲ海でお茶を」は、タイトルにあるように舞台はエーゲ海、飲んでいるのはミルクティーだ。

   8月19日、中野サンプラザで行われたライブ「シンガーとソングライター」に登場した山崎まさよしは「この俺が、バーボンとかウイスキーじゃなくミルクティーだよ」と笑わせながら歌った。彼のブルースハープが、アメリカ南部の土の匂いとは違うやわらかな海風を運んでくるように聞こえた。

   どの曲にもそうした「らしさ」とは違う新しい味付けがされている。何しろ、「ひまわりの約束」で茶の間にもブレイクした秦基博の歌う「あぶない部下と危険な上司」は、女性の上司を持つ部下の歌だ。グラマーな外見によからぬことを妄想する部下というユーモラスなオフィスソングは自分では絶対に書かないテーマだろう。杏子の「女神誕生」は、ミロのビーナスを思わせる甘美でエロチックな誘惑的なバラードだ。本人では気づかないその人の潜在的な魅力や新しい一面を引き出してゆく。それが「ソングライター」だという証明のようなアルバムだった。

   才能をどう育てるか。思うような成功を手に出来なかったバンドメンバーをソングライターとして開花させる。福耳がそうした場になっていると思わせてくれた。

   杏子は「福耳はオーガスタキャンプがあったからここまで来たと思う」と言った。

   オーガスタキャンプは99年に山崎まさよしの野外ライブツアーとして行われた。その時のスローガンは「ゴミを出すなよ」。オープニングに登場したのがCOILでアンコールで杏子とスガシカオと一緒に歌ったのが「星のかけらを探しに行こうagain」だった。毎年新しいアーティストがオープングをつとめユニットに加わって行く。そうやって迎えるのが今年、20回目になる。

   音楽制作会社はCDを作るだけではなく、才能を育ててゆく。そして、社会にメッセージを発信してゆく集団でもある。

   20回目の「オーガスタキャンプ」は、2018年9月23日、富士急ハイランドで行われる。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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