2018年 11月 18日 (日)

全裸の自転車パレード 町山智浩さんは半裸で走って「脱ぎ損」に

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   週刊文春(10月11月号)の「町山智浩の言霊USA」で、映画評論家の町山さんが「全裸自転車ライド」の体験記を書いている。筆者はカリフォルニア州バークレー在住。折に触れて米国の社会や風俗を日本に発信しており、「全裸」取材はBS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るTV」のロケである。番組は9月初めに放映されている。

   開催地はカリフォルニアの北隣にあるオレゴン州のポートランド(人口約60万人)。ここで毎年、裸の男女が自転車で10kmほどを集団で走るイベントがある。同種の催しは各国各地にあるが、ポートランドの規模は最大で、今年も約1万人が参加したそうだ。

「それだけの数のおっぱいやちんちんを1度に見たのは生まれて初めてだった」

   ただし、文字通りのスッポンポンは約半数で、町山さんもパンツをはいてルポしている。イベントの目的の一つは、地球温暖化をもたらす化石燃料や自動車への抗議だという。

「ガソリン自動車にポートランドは市ぐるみで反対しており、市内の道路は歩行者と自転車、それに市電が中心で、自動車は肩身が狭そうにゆっくり走っている。だからスモッグも交通事故も少ない」

   市のモットーは〈ヘンテコな街であり続ける=Keep Portland Weird〉だ。

  • 「米国人が最も住みたい街」とされるポートランド。年に一度、裸ライダーがあふれる(編集部撮影)
    「米国人が最も住みたい街」とされるポートランド。年に一度、裸ライダーがあふれる(編集部撮影)

全裸で走るワケ

   それにしても、なぜ全裸なのか。

   かの地で下された「芸術表現やメッセージのための全裸は公然わいせつ罪にあたらない」との判例が支えらしい。だから「警察は逮捕するどころか、全裸ライダーのために自動車の規制をして全面協力した」

   住宅地を走るライダーたちを、沿道の家族が星条旗を振って歓迎するという。

「モラルや常識に縛られない自由さがウリ。それを求めてキリスト教や何やらで自由のない南部や中西部から人々が移り住み、住宅ブームで市は大儲けしている。警察が協力するのも当たり前だ」

   全裸になる理由はまだある。「どんな体も素晴らしい」を意味する「Body Positivity」の運動である。太っていようが痩せていようが、傷や欠損があろうと、あなたの身体はそれ自体が素晴らしいと訴えるムーブメントだ。

「ファッション・モデルのような体形に憧れて、そうでない体の人を蔑視したり、自己嫌悪したり、拒食症になったり、整形にハマったりせず、それぞれの身体を讃えましょう、ということ」

   とはいえ町山さんは、イベントの体当たり取材が決まってから「56歳の老醜を視聴者にお見せしては申し訳ない」と、ダイエットと筋トレに励んだ。いざ参加したら、周囲はブクブクやブヨブヨだらけ...なにしろ、どんな体も美しいのである。

   収録した映像は画面いっぱいに数千人の性器や乳房が映り続けるため、局所だけをいちいち修正するのは不可能と結論づけられたそうだ。

「首から下が全部ボカされて、何が何だか全然わからない、という放送事故モノになってしまった。オレと1万人、脱ぎ損!」

一般紙でも扱えるか

   ツイッターでも26万超のフォロワーがいて、積極的な発信を続ける町山さん。上記の取材はテレビ向けのもので、大切な情報は放送されたコンテンツに尽きているだろう。副産物のこのエッセイは、イベントの背景や裏話に、「どんな体も素晴らしい運動」をめぐる最近の騒動を加えて構成したものだ。

   と、ここまで書いてきて、今回はやや勝手が違うと気がついた。これまで私が「コラム遊牧民」で取り上げてきた文章と異なり、これといった「主張」がないのである。あえて抜き出せば「警察が協力するのは当たり前」の部分くらいだ。

   全裸でのイベントを肯定的に体験取材していることから、読後感として町山さんの共感は伝わる。ただ、それが自身の言葉で明示されておらず、総じて現地報告的なトーンである。

   もちろん「珍体験」自体に価値があるので、読み物としては「あり」だ。日本人識者による賛否双方のコメントでもつければ、一般紙に載っていても違和感はない。

   写真の選択には苦労しそうだが。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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