2019年 10月 23日 (水)

中島みゆき、「歌旅・縁会・一会」
平成最後の師走に聴く12曲

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   今、最もチケットが取りづらいアーティストの一人が中島みゆきだろう。特に彼女が原作・脚本・作詞・作曲・主演をつとめる世界にも例のない音楽舞台「夜会」は一人二万円という高額にも関わらず入手困難超プラナチケットにもなっている。2019年1月30日から行われる「VOL.20 リトル・トーキョー」もチケット発売となり過熱ぶりに拍車がかかりそうだ。

   それに先駆けて2018年12月19日に「中島みゆきライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」が発売になった。タイトルにあるようにこれまでの彼女のライブアルバムの中からリクエストの多い曲を中心にまとめたダイジェスト版である。

  • 「中島みゆきライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」(初回盤、ヤマハミュージックコミュニケーションズ、アマゾンHPより)
    「中島みゆきライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」(初回盤、ヤマハミュージックコミュニケーションズ、アマゾンHPより)

「夜会」とは異なるコンサート

   中島みゆきのステージ活動はいくつものスタイルに分かれている。一つは言うまでもなく「夜会」だ。89年に始まり今回は30周年。当初はすでに世の中に出ている曲を新しい文脈や物語の中に置くことでそれまでにない光を当てて解放するという趣旨だった。回を重ねるごとに進化し、今のような物語も曲も書き下ろしオリジナルという形になったのは、96年の「VOL.7 2/2」から。そして、2013年からは「夜会」のために書き下ろされた曲を集めたダイジェストコンサート「夜会工場」もスタート。やはり2018年12月19日には2017年から18年にかけて行われた「夜会工場2」を収めたライブDVD・ブルーレイも発売になった。

   「中島みゆき ライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」は、そうした「夜会」関連のものではない。「夜会」が、コンサートのように「歌を聴かせる」ことに留まらない表現者としての総力を注ぎ込んだ舞台だとしたら「歌旅・縁会・一会」は、通常のコンサートツアーの映像で成り立っている。今の彼女のライブを味わえる恰好の作品だろう。

   中島みゆきのデビューは1975年。70年代・80年代・90年代・2000年代と四つの時代でシングルチャート一位を記録した唯一のソロアーティストであり、2010年代も加えて提供曲が五つの時代で一位となった唯一のソングライターでもある。

   ただ、それだけの実績がありながらライブ作品が少ないことは業界の謎として語られたこともあった。特にコンサートツアーの様子が映像化、CD化されたのはデビューから30年以上経った2007年の「歌旅」が初めてだった。

   なぜそんなに時間がかかったのか、ということに対しては当時、「ライブは一期一会。その会場の環境や条件とそこに集まった観客の空気、ミュージシャンの状態も含めてどれも毎回違う。例え数か所で収録したとしても、そのツアーを記録したとは言えない。ようやくそこを克服した完成度の高いライブが出来るようになったと思えたから」という話をしていた。

「世情」、なぜ今、この曲なのか

   ライブが選ばれている三つのツアーはそれぞれ性格が違う。2012年から13年にかけて行われた「縁会」は、従来のコンサートツアーが「夜会」に準じて「縁会」と名付けられたもので震災後初のツアーだった。更に、2015年から16年にかけての「一会」は「今、聴いてほしいうた」というキャッチフレーズがついており、これまで余り歌われたことのない曲が中心。どれもその時代の彼女の心境や音楽に託そうとしたものが感じられる内容となっていた。

   「中島みゆき ライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」には「歌旅」から3曲、「縁会」から5曲、「一会」から4曲の計12曲が選ばれている。

   どの曲がどのツアーだったかは一種の「出典」という意味合いが強いかもしれない。違うツアーから選ばれたものであるものの、一つのコンサートとして流れている。それぞれの曲がなぜ選ばれているかを想像することで聴き方の楽しみが倍加するはずだ。

   例えば、一曲目の「もう桟橋に灯りは点らない」は、ツアー「一会」の一曲目だった。94年のアルバム「LOVE OR NOTHING」の中の曲だ。でも、聴きながら思い浮かべるのは時の流れの中で切り捨てられ姿を変えてゆく地方都市の様子だろう。今年もそうだったように平成という元号は日本列島が災害に見舞われた時代として残るのかもしれない。なぜ、今、この曲なのか。このベストが平成最後の年末に発売されたことは偶然ではないはずだ。「縁会」ツアーで27年ぶりに歌われた「世情」は、まさに今の歌だ。

ジョークにするしかない

   今年も様々な音楽のランキングデータが発表になっている。配信チャートやカラオケで歌われた曲の上位に入っている「驚異のロングヒット」が「糸」だ。オリジナルは92年のアルバム「EAST ASIA」。今年最も多くの歌手にカバーされた曲だろう。でも、彼女が実際に歌っているライブバージョンはこれまでCDにはなっていなかった。2007年に発売されたライブ映像「歌旅~中島みゆきコンサートツアー2007」で見ることが出来るものの、その模様を収めたライブCDには収録されていなかった。つまり今回が初のライブCD化ということになる。

   「糸」だけではない。「歌旅」「縁会」「一会」とそれぞれのツアーはライブCDにはなっている。でも、今回の12曲は、そこに収録されなかった曲ばかりが集められている。「ベスト盤」でありながら「初CD化盤」というライブアルバムでもある。

   収録曲の中で「糸」と並んで目を引くのが「時代」だろう。1975年の発売でありながら、時が経つほどに説得力を増している。今年の紅白歌合戦でも歌われる曲だ。ここでは東日本大震災の後のツアー「縁会」から選ばれている。

   アルバムの多くが、時の流れの中で傷つき取り残され、戦いながらも沈黙せざるを得ない人たちへの心情が綴られた曲であることを思うと「時代」がアルバム全体のテーマ曲のようにも聞こえる。彼女がデビュー以来一貫して歌ってきていることが凝縮されているライブアルバムだろう。

   平成最後の師走。それぞれの曲の中の儚さと愛おしさ、叶った夢と叶わなかった夢、口に出せた願いと出せなかった願い。「風の笛」では、「言葉に出せない思いのために お前に渡そう風の笛」と歌っている。アルバムの最後の曲は「一会」のツアーの最後の曲だった「ジョークにしないか」。最新のツアー「一会」の一曲目で始まり、その最後の曲で終わる。2018年の中島みゆきが伝えたいこと。これが単なるライブベストはないことの証しだろう。こんな歌詞がある。

   「伝える言葉から伝えない言葉へ

   きりのない願いは ジョークにしてしまおう」

   ジョークにするしかない。

   そんな年末を迎えようとしている。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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