2019年 10月 23日 (水)

仕事への無関心が経営の大敵 「その道の達人」を目指して

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■「センスメイキング 本当に重要なものを見極める力」(クリスチャン・マスビアウ著、プレジデント社)

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   著者は、デンマーク生まれ。ニューヨークでビジネスコンサルタントをしている。第四次産業革命が進行する中で、自然科学的思考法が優位になりすぎていることに警鐘を鳴らす。論理的思考法として、日本では、帰納法と演繹法の二つが広く知られているがもうひとつある。Abduction(仮説を形成して推論する方法)。ひらめきによって仮説を立てるAbductionの重要性を筆者は説く。

優れた管理職や経営トップは「現象学」の手法を用いる

   米国の大企業や政府機関のトップには、心理学、英文学、歴史学などを専攻した人物が多くいる。データや客観的事実に頼るのではなく、人間の感情という文脈や、自らの関心や情熱に頼って仮説を立てるのである。

   そのひとりがジョージ・ソロス。ロンドン大学での師は哲学者のカール・ポパーであった。幼いころ戦争をまのあたりにしたソロスは、縄張り争いや傷ついた自尊心などが世界を動かすことを強く感じていた。ソロスはデータから得られる知識に加えて財務大臣の心中に思いをいたし、投資を実行する。

   Abductionの能力を培うには、現象学という学問領域が役に立つ。

   実践知が豊かな人間は、ルールやモデルに依存するのではなく、目前の境遇や状況に応じて理解し行動に移すのである。まるでプロゴルファーのティー・ショットのように。優れた管理職や経営トップは、社員のモチベーションを高めるために、現象学の手法を用いている。感情と知性の双方を駆使して組織に関わる。そのときのキーワードは「共感力」。とくに重要なのは分析的な共感力。人文科学や社会科学の理論に目前の状況をあてはめて、ひとつかふたつの理論を用いて洞察するのである。

読書、経験、観察の積み重ねからブレイクスルーが起きる

   説得力のある洞察とはどのようなものだろうか。

   私たちの毎日は、秩序や確実性を求める傾向があるが、積極的にわからない状況を続けることによって洞察が磨かれる。一切の先入観を持たないで新しい知識や洞察に到達しようとする。幅広くデータを集め収集・整理するうちに、複数の理論が見えてくる。雑多でつかみどころのないデータから真の創造性が生まれる。読書、経験、観察の積み重ねからブレイクスルーが起きるのである。その到達点は、美的な判断。

   最も美しいもの、最も喜びが感じられるもの、最も強力なものはなにか。この解釈はアルゴリズムにはできない。達人は人生をかけてこの解釈の技を追求し世の中を理解しようと努めているのだ。

   ナパ・バレーにカリスマといわれるワイン醸造家がいる。40年をかけ、科学的知識に加えてベテランの智恵を学んだ。理想のワインをつくるために。彼は、ぶどうの樹を表現する際に土壌のpHや塩分濃度ではなく、年を重ねて賢いとか気品があると表現する。おいしいワインに関心を持ち続けたからこそデータや知識がつながった。

   企業や組織が問題を抱えているとき、しばしば無関心が蔓延している。経営幹部が組織のミッションの意味を見失ないニヒリズムに陥ってしまうのだ。仕事に関心をもたなくなると「正しさ」は見えても「目指すべき目標」は見えなくなってしまう。ひとりひとりの関心を褒め、その道の達人になるように努めることによって、社員も組織もどんどんと成長する。

   そのために人文科学の分野は理想的なトレーニングであり喜びや楽しみをもたらしてくれる。歴史や芸術のたしなみは、新しい現象や厳しい競争に対応するのに役に立つ。専門教育のレベルを高めるとともに、人文にもっと自由に、もっと深くひたることが、求められている。

ドラえもんの妻

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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