控えめな県民がスタンディング・オベーション
『踊る。秋田2016』はモダンテーブルの『ダークネス・プンバ』フルバージョンの日本初公演だった。彼らの舞台に、観客全員立ち上がってスタンディング・オベーションが起きる一幕も。ふだんは控えめな県民気質を知るだけに思わず涙が込みあげたと山川は目を細める。最終日の「大駱駝艦」公演では2時間前から列ができた。
「先頭から50人くらいはおじいちゃんとおばあちゃんで、『何で来たんですか?』と聞くと、秋田弁で『わげ(訳)わからねぇども、面白れがったもの』と(笑)。秋田の観客はものすごく素直なので、踊り手も感動するんです」
翌2017年に「土方巽記念賞」を設けて公募したところ、世界16の国と地域から219作品のエントリーがあり、50作品ほどは韓国からの応募だった。そもそも韓国では石井漠が大正15(1926)年に初の朝鮮公演を行い、この年が韓国の「モダンダンス元年」とされている。こうした日韓の絆をより育み、アジア各国との文化交流を推し進めていく目的で立ち上げたのが「Asia Festival Exchange」だ。
初の試みとなる2018年度は、韓国のSCF( Seoul International Choreography Festival)、NDA(New Dance for Asia)、国立ソウル芸術総合学校からコンテンポラリーダンサーを招聘。公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の支援により、出演料、宿泊料、渡航費を賄うことができた。
これまでの招聘作品とは趣向を変えて、女性デュオとソロの作品でプログラムを組んだ。力強い優雅さを持つイ・ジヒ、愛くるしさにあふれたイ・ダギョム、さらに健気な哀切さに満ちたイ・ギョングの3作品。選考にあたった山川はいう。
「韓国のダンサーは極めて高いテクニックを持ち、特に男性は身体的な強さも凄い。国内の20カ所以上でダンスコンクールが開かれ、優勝した男性ダンサーは兵役免除になるため必死で技術を磨いています。秋田もダンス人口は多いけれど、男の子はほとんどいない。その状況を打破しようと、パワフルに踊る男性ダンサーを中心に招いてきましたが、去年は女性ダンサーの作品を紹介することでより幅広いダンス表現を楽しんでもらいました」
終演後のロビーではダンサーを囲んで握手やサインを求める姿が見られ、高校生もかなり観にきていた。今年は韓国、シンガポール、福岡からダンサーを招聘し、その後は台湾、香港とネットワークを強固にしていきたいと考えている。
「コンテンポラリーダンスとは一つのジャンルではなく、"今"という時代に向き合っていく身体表現なのだ」と山川は語る。
それは言葉を超えて、人間の肉体がもつ根源的なリズムを掘り起こしていくもの。だからこそ、今の時代を生きる多様な人をつなぐ架け橋にもなると信じている。 (敬称略)
(ノンフィクションライター 歌代 幸子)