2019年 12月 14日 (土)

何もしないバカンス 茂木健一郎さんが説く「脳の空白」の効用

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   プレジデント(9月13日号)の「世界一の発想法」で、脳科学者の茂木健一郎さんが休みには「何もしない空白」を設けて脳を解放しよう、と説いている。

「テクノロジーが進むと、余計な仕事がなくなるという側面もあるけれども、一方で仕事が増えることもある。メールの返事をしたり、情報共有アプリで常にやりとりをしたり、仕事が『オン』のときの忙しさの密度は以前よりも強くなっている側面もある」

   だからこそ「オフの時間」が、脳の働きにも大切だという。物理的、精神的に仕事から離れることで、「初めて育まれる脳内プロセス」があるそうだ。茂木さんが勧める「オフ」は、観光地を訪ね回るような「物見遊山」ではなく、何もしないバカンスである。

「海辺のような景色のよいところで、基本的に何もせず、寝転がって涼んだり、本を読んだりしている。気づくとウトウトと眠っている。カクテルを飲んで、またまどろむ」

   何もしないバカンス。これを「もったいない」と感じる限り脳は休めない、ということだろう。このご時世、何もしないのはむしろ贅沢でもあるが、ふだん仕事に追われ、疲れを自覚している人ほど、「本来の自分」に戻してくれる効果が期待できるそうだ。

「脳には『隙間』が必要である。目の前の『オン』の情報処理でいっぱいになってしまうと、内側からわきあがってくる情報を拾えなくなってしまう。偏桃体をはじめとする回路に潜む感情や、側頭連合野の奥深くにしまい込まれた記憶。これらを深掘りして、初めて見えてくる自分の姿がある」

   その結果、生きることへのモチベーションが力強く回復するらしい。

  • スペイン東南部の保養地、コスタブランカ(白い海岸)を代表するアリカンテの夏=冨永写す
    スペイン東南部の保養地、コスタブランカ(白い海岸)を代表するアリカンテの夏=冨永写す

かっかと熱いものが

   ここで茂木さんは、学生時代の体験に触れる。

   大学院にいた頃というから、1980年代後半のバブル期だろうか。学生向けの企画で、バカンスの本家、フランス系の企業が運営するインドネシアのリゾートに滞在した。何日もプールサイドでゴロゴロしていたら「不思議なこと」が起きたという。

「心の内側からかっかと熱いものがこみあげてくるような感覚があったのでる。そして、しばらく忘れていた、人生でこんなことをしたいという夢や、志のようなものを思い出した。前向きに生きる勇気が出てきた」

   時間と心に「何もしない空白」を得て、「自分の奥底にある感情や記憶」が意識に上ってきた。これで、バカンスの効用を実感したという。

   何もしないために行く海外旅行なんて、そんなカネもヒマもないよ!というツッコミが当然あるだろう。私も喉まで出かけた。茂木さんも先刻ご承知で、「どこにも出かけずに、自分の部屋でゴロゴロと横になって、うたた寝をするのでもいい」と付け加えている。

「大切なのは、活動を詰め込まずに、思い切って何もしないで過ごすこと。リラックスして、脳の『空白』さえ生み出せれば、いつでもどこでもあなただけの『バカンス』が始まる」

パンパンで勤務地へ

   さて、本場ヨーロッパの長いバカンスも終わり、勤め人たちが保養地の土産を気だるく交換する頃である。欧州勤務が長かった私だが、浜辺でゴロゴロするようなホンモノのバカンスは数えるほどしかなかった。ただ、そんな休暇から戻った時のリセット感は覚えている。若ければ「忘れかけた志」を、働き盛りなら「本来の自分」を取り戻すのだろう。

   私の場合、そもそも脳みその容量の問題もあるのだが、脳内にこじ開けた空白は連載の構成やら新企画のアイデアやらでたちまち埋まり、頭がパンパンになって勤務地に戻るのが常であった。思えば働き中毒だったのだろう。

   退職後、カネはともかくヒマはできたのだが、脳の空白を生み出す必要性が大幅に薄れている。この連載以外に「追われる仕事」は見当たらず、疲れを自覚することもない。いわば毎日が、見飽きた風景の中で続くチープなバカンスなのだ。

   だから、今さらではあるが、オンとオフのコントラストが鮮やかな生活に憧れる。

   何もしない贅沢と、それによる脳の「再生」は、しゃかりきに働いた人の特権なのだろう。要は、スイッチを切れる度胸と余裕だと思う。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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