2020年 7月 2日 (木)

写真より景色 松本千登世さんが箱根で学んだ5歳児のひとこと

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写真か被写体か

   肝心なのは写真や動画か、あるいは被写体(現実)そのものか。古くからあるこの葛藤は大なり小なり、どんな場面でも生じうる。私が日常的に経験するのは、孫の笑顔を待って画面を睨むか、はたまた笑顔で孫と戯れるか、という二者択一である。卑近すぎたか。

   シャッターチャンスも実物も「今しかない」のだが、私の場合、新聞記者だったころの悪いクセで、択一なら自分が楽しむ前にまず記録という順番になってしまう。

   松本コラムに登場する若い両親も、わが子の成長を記録したいという一心であろう。そこに当の被写体側から、空気を読まない正論が返される。対する両親の反応が書かれていないのが惜しい。私なら「ああ、それもそうだね」とか言って、自らの「大人げなさ」を取り繕うのではなかろうか。スマホは完全にはしまわずに。

   絶景は逃げない。いつまでもそこにドンとあるのだが、天候や時間帯を重ねた「この景色」はそれ限り。そして何より、あじさい電車のほうが自分たちを乗せて逃げていく。

   そう考えれば松本さんが書くように、「景色を楽しむ子ども」を記録に収めるより、「親子で楽しんだ景色」を五感に刻むのが正解かもしれない。

   前者は長く残るが、後者はたぶん深く残る。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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